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2020.07.10

細川雅巳『逃亡者エリオ』第4巻 弟殺しの真実 そして運命への抵抗へ

 14世紀のカスティージャの王位争いを背景に、監獄帰りの青年エリオと仲間たちの戦いを描く本作も、同時発売されたこの第4巻・第5巻で以て完結となります。まずご紹介する第4巻で描かれるのは、エリオの過去編の続き――彼が監獄に送られることとなった弟殺しの真実であります。

 無実の罪を着せられたララを助けたのをきっかけに、彼女の兄であるエンリケとペドロの王位争いに巻き込まれることとなったエリオ。ペドロに追い詰められたエンリケを助けて窮地を脱した彼は、エンリケらの求めに応じて、自らの過去を語り始めることになります。

 5年前、武術の達人である厳格な父・ビクトルの下で、王衣――王族の護衛を務める武術使いとなるべく、修行していたエリオと弟のパブロ。王位選抜の闘技会に参加することとなった二人は、過酷な予選の末、自分たちを含めた8人によるトーナメントに参加することのなります。
 二人以外の参加選手は、戦場仕込みの技を操る傭兵に、代々王位を務める名門の達人、幼い姿で残酷な技を操る少年や得体の知れぬ美少女と多士済々。

 その第一回戦でそれぞれ勝利を収めたエリオとパブロですが、しかしその戦いぶりは大きく異なります。方や、相手の身に不必要なダメージを与えることなく倒そうとし、試合が終わればノーサイドのエリオ。方や、容赦なく相手を叩き潰し、勝負が着いた後にも相手の命を奪うパブロ。

 そしてこの二人の戦い方は、その生き方の象徴ともいえるもの。お人好しと言えるほど相手のことを慮るエリオと、ただひたすらに力を求め、孤高に生きるパブロと――対象的な兄弟ながら、エリオはそんなパブロを愛し、彼の身を案じるのでした。
 しかしそんな二人に対して、王位としての指名を果たせと厳しく接するビクトル。そしてそれがついにパブロを激昂させ、骨肉の悲劇が演じられることに……


 物語冒頭から触れられていたエリオの罪――弟殺し。それだけに結末は決まっているとはいえ、どのような経緯を経てそこに至るのかが、この過去編の眼目といえるでしょう。
 そして描かれたその悲劇の引き金は、表向きはパブロの暴走に見えますが――しかしそれは、使命や運命といったものに縛られ、己の未来を決められた少年の心の叫びというべきものと感じられます。

 あるいは彼が一人であれば、結果はまた違ったかもしれません。しかし同じものを背負っているはずのエリオはどこまでも明るく人々を助け、それでいて自分には手を差し伸べない――それはあくまでも弟の自由を重んじるがゆえだったのですが――ことが、パブロを凶行に走らせたといえるでしょう。
 だとすれば、その幕を引いたエリオが、運命に――すなわち、自分以外の者に自分の生き方を決められることに激しく反発するのは、むしろ当然とも感じられます。


 と、エリオの過去としては納得の内容だったのですが、一つの物語として見ると、かなり駆け足に感じられたのも正直なところであります。
 このトーナメントの陰に、ララの母の命を狙ったペドロの母・マリアの存在が在ったり、デボラの師である暗殺者の元締め「先生」の弟子がトーナメントに参加していたりと、盛り上がる要素があっただけに、せめてトーナメントがもう少し進んでも――という印象は否めません。

 この過去編の、トーナメントの参加キャラもなかなか個性的であっただけに、結果的にここでフェードアウトになってしまったのも、何とももったいなく感じられるところであります。
(特に、いかにも「先生」の弟子らしかったけれども実は、というあのキャラ)。


 何はともあれ、この巻の終盤で舞台は「現在」に戻り、さらに数年の月日が流れることとなります。
 ペドロに戦いを挑んだものの、敗残の身となったエンリケが、乾坤一擲の大勝負を見せようとする中、それぞれ成長し、新コスチュームとなったエリオと仲間たちは、いよいよ最後の戦いに臨むことに……

 と、残すところはあと1巻、最終第5巻も近々にご紹介いたします。


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