わらいなく『ZINGNIZE』第4巻 小太郎の道理、小太郎の狂気!
時は1604年、魔人・風魔小太郎に挑む高坂甚内ら三人の甚内の物語は新章に突入。この巻では、夜の闇に蠢く奇怪な死人の軍団と高坂甚内の戦い、そして小太郎の不死身の秘密と真の狙いが描かれることとなります。果たして小太郎の狂気の野望とは……
大久保長安の依頼で(というより彼に仕える女忍び・菊の色香に迷って)、凶賊風魔一党を率いる小太郎討伐を引き受けた高坂甚内。しかし小太郎の不死身の肉体を前に惨敗を喫した高坂は、それでもめげることなく小太郎の首を狙い続けます。
風魔の密偵だった庄司甚内を仲間に加え、かつての仲間だった鳶沢甚内も味方に――はできなかったものの、再戦に向けてやる気十分な高坂。しかしその裏では長安が不穏な動きを見せていたのでした。
そして関東の古戦場で、夜毎謎の軍勢が蠢いていることを知った長安に派遣された菊は、下総国臼井でその軍勢を発見するのですが――その正体は巨大な鎧武者の老人に率いられる死人の群れであったのです。
発見され、死人たちを蹴散らして脱出せんとするも、老武者に倒され人質にされた菊。そしてその前に現れた小太郎は、彼女に自分の過去と真の目的を語るのですが……
と、菊が人前では読めないような姿で表紙(そして口絵や本文ではもっと大変なことに)を飾るこの巻の前半では、菊の視点から、小太郎の新たな策動が描かれます。
小太郎の配下の一人・丹生童子の得意とする忍法・反魂香で復活した、古戦場に眠る無数の兵の亡骸。まだ戦国などほんの昨日のことであるこの時代、戦死者の亡骸など、無数に存在しているわけで、それを手勢として操ればどうなるか。
本作ではほとんど冒頭から登場していた(そしてその後の小太郎との対決が凄すぎて私は存在を忘れていたのですが)丹生童子、こうしてみるとほとんど反則級の能力です。
しかし反則といえば、真の反則は、そもそも死なない風魔小太郎の存在であります。
死人の群れを相手に、片足ガンブレードガールとして戦いながらも奮戦虚しく捕らえられ、縛められた菊の前に(何故か全裸で)現れた小太郎。
ああっ、本当にお菊さんが人前では読めないような目に遭ってしまう! と思いきや、そこで思わぬ小太郎の肉体の秘密が明かされることになります(この辺りの落差が本作は本当にうまい)。
菊に自分が不死身となった理由を得々と語り始める小太郎――そしてそれは同時に、彼が天下を騒擾するその理由を語る物語でもあります。不死身の肉体を持った彼が、天下静謐を目前としたこの時代を乱さんとするその理由を……
タイトルに表れているように、本作はもちろん高坂甚内を――三甚内を主人公とする物語であります。しかしそれ以上に、本作において強烈な存在感を発揮しているのは小太郎であることは間違いないでしょう。
その強烈な髪型とお茶目な言動――はさておき、比喩ではなく文字通りの不死身の存在である小太郎は、死と暴力の化身として、本作に君臨しているのですから。
しかしその彼が何のために暴れているのか――その点については、単に暴れたいからだろう、とこれまで全く疑いを持たずに読んでいたのですが、なるほど、こんなとんでもない理由であったか! と驚かされました。
確かにそれは無茶も無茶ではありますが、しかしこの時代に、そしてこのような肉体を持った人間ならこうもなろうという道理と、それでもなおやはり彼らしい狂気を感じさせるものとして、納得させられた次第です。
しかし、そんな過去も理由も、高坂甚内には関係のないこと。彼の行動原理は唯一つ、菊を救い出すこと――かくてこの巻の終盤では、単身、いや庄司を引き連れて死人の群れに突入した高坂の八方破れの大暴れが描かれることになります。
しかし彼が超人であれば、その前に立ちふさがる老武者もまた怪物。そして単なる怪物とは思わぬ威厳を持ったその正体とは……
ラストでは、安定を求めて戦いから背を向けていた鳶沢甚内も動き出す様子で、物語もいよいよ盛り上がるばかり。もうここはこの勢いと熱量に圧倒され、流されるのが正しいのでしょう。
粗削りですが、それだけのポテンシャルを持つ作品であります。
それにしても、小太郎の過去において菊が不審を抱いた点は、確かにあれは気になるわけですが、そういえば長安とあの家には、一つの接点が……
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