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2020.07.15

藤田かくじ『徳川の猿』第2巻 新たなる天狗、その名は相馬……

 太平の時代に次々とテロを引き起こす謎の集団「天狗」に立ち向かう、女性ばかりのカウンターテロ部隊「猿」の死闘を描くバイオレンスアクション漫画の第2巻であります。天狗たちの策謀が激化、巧妙化する中、猿たちの戦いの行方は……

 父の仇討ちのために訪れた江戸で「天狗」のテロに巻き込まれ、「猿」の一員であり、目・耳・口が不自由ながら皮膚感覚のみで異常な戦闘力を発揮する異形の娘・月に助けられた少女剣士・鈴。父が天狗に殺されたことを知った彼女は、自らも猿の一員に――という名目の、月の飯炊きに――加わるのでした。

 猿のメンバーは、月とその妹分であり、鳴らす太鼓の振動で月に情報を送る犬千代に加え、お家を取り潰され今は銭湯で働くくノ一の服部小虎、銭を撃つ銃を操る女岡っ引きのゼニ、表の顔は骨接ぎ師の暗殺者・梅蘭、そして自称・正義の味方の仮面の剣士・獅子丸と実に個性的。
 そして敵である天狗の側も、トーマス・ラッフルズをスポンサーに、モリアーティ少年や正体不明の金髪美女「うつろ舟の女」と妙にワールドワイドな顔ぶれで、この両者によるド派手な戦いが繰り広げられることになります。


 さて、第1巻(とこの巻の冒頭)では、天狗のテロ活動もかなり無計画に感じられるものが多かった――もちろん、そういうものの方が恐ろしかったりもするのですが――のですが、この巻ではより巧妙に、そして大規模になった感があります。

 上で述べたように、幹部クラスは国際色豊かな天狗。しかしこの巻の前半に収録されたエピソードでは、日本人を幹部――十二天狗の一人に取り込もうと策謀することになります。その人物の名は、相馬大作――そう、津軽公暗殺を狙った南部藩士・下斗米秀之進であります。
 そしてこの下斗米秀之進と縁のある人物が、実は猿の中に一人おります。それは獅子丸こと潮――何故なら秀之進と潮はともに、平山兵原(行蔵)の弟子なのですから!

 文政の三蔵と呼ばれた兵法家であり、その行住坐臥においてあまりに苛烈な修行を行ったことで知られる奇人・平山兵原。その彼が対ロシアのために育て上げた「兵器」である(という大いにそそられる設定の)獅子丸。
 そんな彼女であっても、秀之進は単なる同門以上の感情を抱く相手。果たしてその彼女が、天狗の一員となった秀之進と戦うことができるのか?

 と、大いに気になってしまう戦いは、ちょっと思わぬ方向に向かっていくのですが――ド派手なアクションに留まらない、なかなか読ませるエピソードであることは間違いありません。

 そしてこの巻の後半では物語はさらにスケールアップ。というのも、舞台となるのは何と江戸城――時の将軍・徳川家斉を主とするこの江戸城大奥での任務、それも鳥居耀蔵と水野忠邦の依頼によるものに、猿たちは挑むことになるのですから。

 最も寵愛を受けるお美代の方をはじめとする女たちを操る怪僧・日啓(真の名をロシアの怪僧・グレゴリオ抹殺!)。
 その日啓暗殺の任を引き受け、協力者である中臈・お眠の手引きで大奥に入り込んだ鈴・月・犬千代・梅蘭ですが、しかしそこで待ち受けていた思わぬ強敵の前に、あわや猿全滅の危機が……


 と、この巻に収録されているのはこの大奥編の途中まで。主人公格であり、あまりに強烈なキャラクターでありながら、これまでその素性が不明だった月の因縁の相手が登場し、これから戦いはいよいよ盛り上がるものと思われますが――一点だけ気になってしまう点もあります。

 それは、登場するキャラクターや題材に、あまり必然性がないように感じられるものが少なくないところであります。
 月が戦いのたびに脱ぐのは、皮膚感覚を高めるためという理屈で納得できるのですが、例えばこの巻でいえば獅子丸がなぜあんなに肌も露わな姿なのか(しかもそういうものに絶対五月蠅そうな平山門下だというのに)。

 その他にも、何故猿の指揮官は女装した遠山金四郎なのか、何故天狗にモリアーティ少年がいるのか等々――面白いは面白いのですが、では何故これが、と考えてみた時に、何か理屈は欲しいなあと思ってしまうのです。

 これはもちろん、五月蠅いマニアの言いがかりではあり、気にしないで楽しむのが正しいのかもしれませんが……


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