「コミック乱ツインズ」2020年8月号(その一)
今月の「コミック乱ツインズ」は、『はんなり半次郎』が表紙&巻頭カラー。『そば屋 幻庵』が久々に復活、『政宗さまと景綱くん』が最終回、その他『かきすて!』『不便ですてきな江戸の町』掲載と、ちょっといつもと変わった顔ぶれであります。今回も印象に残った作品を紹介します。
『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
陶器の継ぎの話をしているところに、求善賈堂に現れた絵師・川原登与助(慶賀)。彼は半次郎に細かく砕いた大皿の、それも二枚分が混じった破片を持ち込み、復元を依頼してきたのでした。一度は無理と思われながら、小夜の努力で見事復元された二枚の絵皿――と、その時乱入してきたのは芹沢鴨、田中伊織(と土方)。芹沢はその皿に、かつてシーボルトが入手した江戸城本丸の見取り図が記されていると決めつけるのですが……
川原、芹沢、田中(何故このチョイス……)さらには終盤にあと二人と、実在の人物祭りの今回(土方は毎回登場していますが)。お話的には結構シンプルなのですが、半次郎のキャラとシーボルトにまつわる史実を絡めて、ある種の女性の生き方を浮き彫りにしてみせた展開には感心いたしました。
しかしここに登場した実在の女性は、えらい苦労を背負ったわけではありますが……(そしてうち一人は、後世の漫画やアニメに思わぬ影響を与えた、というのは余談)
『そば屋 幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
そば職人の網五郎から、下総で見つけた「新しい豆」を手に入れた玄太郎。炒ってもゆでても旨いこの豆を使って、新しい蕎麦を作り出そうとする玄太郎ですが、なかなかうまくいかず……
というわけで、千葉県民にとってはお馴染みすぎるあの豆に玄太郎が挑む今回。なかなか蕎麦を食べてくれない孫のためという下心もあって、あの手この手を試す玄太郎ですが――あ、これは絶対美味しそうという蕎麦が完成するのはいつもの通りなのですが、読んでいて夜中でも蕎麦が食べたくなるのは本当に困る。いや困らない。
にしてもこちらの登場人物は、皆瞳が明るくてよいなあ――と、『勘定吟味役異聞』との違いに改めて驚かされますが、そちらは次号から新展開で連載再開であります。
『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
自分と益子屋、そして唐津藩の関わりが、かつて亡父が江戸家老・拝郷の依頼で家中の罪人の首を斬ってみせたことから始まったと知った佐内。今の自分が、言ってみれば親の代の関わりによって動かされていると知った佐内は、さらに根岸から「おぬしは一体何の為に人を斬る?」と尋ねられて……
前半で描かれる父・友右衛門の峻厳苛烈な生き方(そして益子屋と拝郷の大人の器量)も印象に残りますが、やはり注目すべきは、後半での自分が何の為に人を斬るのか――言い替えれば、自分の生き方とは何かという問いかけに揺れる佐内の姿でしょう。
これまで一貫して描かれてきたように、(おしまさんには年相応の顔も見せつつも、)普段はどこか老成した――虚無的とはまた微妙に異なる――雰囲気を漂わせる佐内。それでいて人斬りという血腥い仕事を淡々とこなす彼の姿は、ある種の違和感を生み出していたのですが――何故人を斬るのか、という問いかけは、根岸だけでなく我々の疑問でもあります。
もちろんそれは金のためであることは間違いありませんが、しかしそれだけのために、恨みもない相手を、自らの身を危険に晒して斬ることができるのか。佐内にとってはそれが当たり前のこととして、彼なりに納得していたわけですが――しかしラストで、何だかそんな彼の心を揺るがせそうな新キャラクターが!
いかにも○○○○面したキャラを前に、どうする佐内、どうする相良!?(お約束)
長くなりましたので次回に続きます。
「コミック乱ツインズ」2020年8月号(リイド社) Amazon
関連記事
「コミック乱ツインズ」2020年1月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2020年1月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2020年2月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2020年2月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2020年3月号
「コミック乱ツインズ」2020年4月号
「コミック乱ツインズ」2020年5月号
「コミック乱ツインズ」2020年6月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2020年6月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2020年7月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2020年7月号(その二)
| 固定リンク