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2020.07.08

松田朱夏『鬼滅の刃 ノベライズ 炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編』 ダイジェストで振り返る物語の基点

 タイトルの通り、『鬼滅の刃』のノベライゼーション――先行して書籍として先月発売され、今月原作第21巻・小説版第3弾と同時に電子書籍化された作品であります。集英社の児童書レーベル「集英社みらい文庫」より刊行された本書は、第1弾として原作の第1巻から第4巻の途中までが収録されています。

 『鬼滅の刃』の小説版としては、上述の通り第3弾が発売された矢島綾のものが既にありますが、あちらがオリジナルストーリーだったのに対して、本作は完全に原作そのままのノベライゼーション。。
 竈門家を襲った悲劇から炭治郎の修行、藤襲山での最終選抜、沼の鬼との戦い、鬼舞辻無惨や珠世との出会いから二人組の鬼との対決、鼓屋敷での戦いから那田蜘蛛山への出発まで――冒頭に述べたとおり、原作の第1巻から第4巻(第28話の途中)、アニメでいえば第14話までを、原作の台詞などをほとんど全く変えることなく収録しています。
(挿絵も原作漫画をページそのまま使用)

 その点だけみると、極端なことをいえば原作読者であれば本作を読む必要はないようにも感じられるかもしれません。
 しかし小学校の読書の時間に読んでもらうことや、アニメや漫画は触れさせてもらえないけれども小説であれば買ってもらえるという読者層を考えれば、なるほどこうした児童文庫レーベルの漫画ノベライゼーションにもしっかりした需要があるのでしょう。


 しかし、それでは原作既読者が単独で読んでみてつまらないかといえば、それはそういうわけでもなく、原作ダイジェストとしてはかなり良くできた部類と感じさせられます。
 本作の場合、ダイジェストとは言いつつも、はっきりと削られたエピソードはなく、省かれた描写は最小限。それでいて原作には明示されていない――けれども描写の裏に存在することは理解できる――心理描写などが追加されており、なかなか好感が持てます。
(ちなみに手鬼の「いまは明治何年だ?」の問いに対し、地の文で「明治は終わった――つい数年前に。」と書いているのが個人的に嬉しかったところでありますが、これはまあごく少数派)

 もちろんこれは、ノベライゼーションであれば当然の内容というべきかもしれませんが、ダイジェストの形で原作が完結したばかりの時期に物語の基点を振り返ってみるのも、なかなか感慨深いものがあります。


 もっとも、原作そのままの、作者独特の台詞回しが必ずしも小説に合っているかと言えば必ずしもそうではなく、炭治郎と初対面の時の義勇さんの怒鳴りの唐突さや、同じく初対面の善逸の言動の異常さは、やっぱり違和感を感じる――と思いましたが、これはこれである意味原作どおりなのかなあ。

 また、本作に収録された部分が(これはこれでキリはいいものの)アニメ版とずれがあるのが気になったところですが、これは分量的に第2巻にアニメの『無限列車編』までが収録されるのかもしれません。
 そう、このノベライゼーション版はこの7月中に第2巻が発売されるとのこと――本作の完成度を考えればこちらも期待できそうなところ、いずれ取り上げたいと考えているところです。


『鬼滅の刃 ノベライズ 炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編』(松田朱夏&吾峠呼世晴 集英社みらい文庫) Amazon


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