『啄木鳥探偵處』 第四首「高塔奇譚」
浅草十二階に出ると評判の幽霊の調査を依頼された啄木と京助は、啄木の友人で、幽霊の記事を書いていた元新聞記者・山岡と出会う。浅草の顔役・六郎から、幻灯師の松吉を紹介された啄木たちだが、六郎は殺され、山岡がその容疑者として疑われる。松吉はある殺人事件の第一発見者だったというが……
アニメ『啄木鳥探偵處』第4話は、原作の第1話であり、原作者が第3回創元推理短編賞を受賞したデビュー作である「高塔奇譚」がベース。アニメ版では実質探偵處の始動第1回となる今回は、高塔――浅草十二階こと凌雲閣に出ると評判の幽霊の正体を啄木と京助が追うことになりますが、そこに数ヶ月前のある殺人が絡み、もの悲しく、切ない物語が展開することとなります。
毎夜決まった時間に凌雲閣に現れるという幻の女性。その幽霊目当てに集まった人々が、皆一様に宙を仰ぐ中で、啄木はかつての友人(当然のように金蔓)の山岡と出会うのですが、この山岡氏、折角得た新聞記者の職を辞めて浅草で働いていたり、辞める直前までまさにその幽霊のことを新聞記事にしていたり、アバンタイトルで殺された女性が遺した「ノドノツキ」という言葉を呟いていたりとあからさまに怪しい人物であります。
そんな中、啄木が幽霊の調査をしていると知って協力を申し出てきた地回り(であろう)エンコの六郎なる男が、幻灯機を扱えるという松吉という男を紹介してくるのですが――松吉との待ち合わせの場に向かう啄木と京助を謎の男が尾行し(後にそれが松吉ではないかということに)、しかも辿り着いてみれば当の松吉は死体となって発見。ご丁寧にその場から逃げ去る山岡の姿を二人は目撃することになります。
と、どう見ても山岡が容疑者である一方で、果たして彼が幽霊を出現させた動機は何故か(どうやって、というのはまあすぐに予想がつく通りなので)、そして何故彼が松吉を殺さなければいけないのか、という謎が残るわけですが――今回はまさに「ホワイダニット」の物語であると言えます。
正直なところ、後者の謎解きは個人的にはあまり好きではないパターンなのですが(本作に限らず、○○がわざわざ探偵に接近してくるというのがどうにも不自然に感じられて……)、前者は、解き明かされてみればこれが実にお見事。なるほど、だからこその十二階の幽霊なのか――というのは、これは原作初読の時同様、今回も改めて感心させられました。
ただ、その一方で気になってしまったのは、山岡が新聞記者として記事を書いていた間は、実は幽霊は実際には目撃されていなかったという(比較的早い段階で)明らかになる事実。いくら新聞というメディアの力で煽ったとしても、さすがに実体(幽霊にこの表現を使うのもおかしな話ですが)がないのでは、最初から幽霊騒動は話題にならないのでは――と首を傾げつつ原作を読み返してみれば、実は非常に大きな要素がオミットされていたことを思い出しました。
この辺りは未読の方のためにあまりはっきりと書けないのですが、この要素は上の疑問に応えるものであると同時に、何故その後も幽霊が出現することとなったかの理由であり、そして何よりも「犯人」のあまりに切ない心情を示すものであって――ここを省くのはちょっとどうだったのかなあ、と別の意味で首を傾げることになった次第です。
その他にも、細かい描写が省略されていたために見えにくくなっていた部分がいくつかあり、原作の面白さを十全に表現したものではなかったなあ――というのが、正直な印象ではあります。
ちなみに啄木と京助さんは、前回あれだけのことがあったにもかかわらず通常営業。冒頭から自分の本を買うための金を貸してしまう京助さんと、平然とそれを受け取って山岡と特上うなぎを食う啄木という、何だか共依存気味の関係は健在でありました(ラストに京助さんが啄木を「天才で子供」と評するのはさすがだと思いますが)。
しかしそれ以上に気になるのは、平然と京助さんの(おそらく)ズボンのポケットから懐中時計を引っ張り出す啄木ですが――それも二度も。
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