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2020.08.14

『啄木鳥探偵處』 第三首「さりげない言葉」

 啄木の証言もあり、華の屋のお滝殺しの容疑で逮捕されてしまった京助。本当に京助が殺したのか、いつものミルクホールに集まった胡堂や朔太郎はそれぞれの推理を開陳するが、どれも決め手にはならない。と、そこに現れた平井太郎と名乗る少年が、自分が見たある事実と、それを踏まえた推理を語る……

 こともあろうに相棒役の京助が、探偵役の啄木の証言で警察に突き出されるという、実質探偵處最初のエピソードとは思えぬとんでもない展開を受けての解決編とも言うべき今回。その前半では、前回繰り広げられた京助と啄木の証言の食い違いが、今度は彼らの友人たちの視点から問い直されることになります。

 というわけで、前回ラストに登場した友人三人衆――野村胡堂・吉井勇・萩原朔太郎のトリオが、啄木を捕まえてミルクホールで推理を開陳することとなりますが、口火を切ったのは陰キャっぽい朔太郎。いきなり犯人は猫だ、と自説を展開するのですが――慕っていた京助に相手にされず、世を儚んで髪を落として尼になろうとしていたところに猫が飛び込んできたために手元が狂って自分を刺してしまった、と楽屋落ちチックに猫を投入してしまったために総ツッコミを受けて撃沈することになります(しかしここで無理やり猫さえ絡めなければ……)。

 一方胡堂は、お滝が教師の身分で女郎買いをしようとした京助を強請ろうとするも啄木の乱入で失敗、逆上して刃物を手に襲いかかって三人で揉み合ううちにお滝を殺してしまい、京助が啄木を庇って警察に――という、平次親分が嘆きそうなアバウトな説を繰り出すも、さすがにそこまで京助も啄木を庇わないだろうとダメ出しをくらうのでした。

 と、そんな騒ぎの横から声をかけてきたのは、夏目漱石先生(三木眞一郎の素晴らしいボイス付き)なのですが、漱石の出番は芥川龍之介を紹介したのみ、そして龍之介は面白ポーズから「藪の中」を連呼――と、確かに前回の感想でも『藪の中』のようだと書きましたが、まさかここで本人(?)からネタにされるとは!
 しかしこのお二人の出番はこれだけ(なのにずっと啄木たちのテーブルの横に突っ立っているのはいかがなものか。少なくとも漱石先生には席を勧めましょうよ)、真打ちはそこにさらに乱入してきた平井太郎少年――後の江戸川乱歩であります。

 ここで太郎が、実はお滝が前日に啄木と京助の下宿を訪れていたこと(そしてわかりやすい誤解をして退散したこと)、事件当日に華の屋に行く前に寄った飯屋に啄木が忘れた日記帳を自分が拾ったことを語るのですが――この日記帳に記されていたお滝と京助、お滝と啄木の関係、そしてお滝の利き腕を見ていたことから、彼が事件の真相を解き明かすことになります。


 ……いやいやいや、前回今回にわたって繰り広げられてきた推理合戦が、一番最後に登場した、そして他の登場人物が知らない事実ばかりを知っている新キャラによって解決されるというのは――いかに太郎が原作の同エピソードに登場していたとはいえ――ミステリとしていかがなものか。さらに太郎(と他のキャラクター)が活躍しすぎて、啄木鳥探偵處である必然性は早くもなくなってしまったのでは――と、この展開にはさすがに言いたくもなってしまいます。

 この辺り、やはりシリーズ構成としてちょっと無理があったのでは(今後も太郎を出すための紹介編の意味もあるのでしょうが)と思わざるを得ないのですが――しかし一見無理があるように思える啄木の行動も、今回明かされた事情や、ラストに語られる啄木のみが見たお滝の姿を知ると、どこか納得できるものとして感じられるのもまた事実。
 推理者によってコロコロと人物像が変わるお滝をきっちり演じてみせた田中晶子の好演もあり、終わってみると何となく良いエピソードに感じられるのは、これは我ながら単純かもしれませんが……

 しかしそれもこれも啄木のヒューマンダストぶりというか、その客観的にみればどうしようもないキャラクターがあってこそ成り立つわけで(理由はあるとはいえ相棒の言動を憎らしく思って警察に突き出す探偵というのは前代未聞)、やはり本作でなければ成り立たない話ではあるのだなあ――と、なかなか評価に困るエピソードではあります。


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