高橋留美子『MAO』第5巻 謎が謎呼ぶ三人目と四人目の兄弟子?
猫鬼との戦いから一転、摩緒を巡る五人の兄弟子たちとの因縁がクローズアップされることとなった本作。摩緒を狙う第三の兄弟子と目される「水」の術者の正体とは、そしてその傍らに立つ謎の女性とは…… さらに菜花の前にも再び猫鬼が現れ、物語は混迷の度合いをさらに深めることになります。
大正時代から遡ること約900年前、平安時代からの因縁――御降家に伝わる呪禁道の秘伝を巡る残酷な儀式の生贄であった摩緒。
彼を殺すよう命じられた五人の兄弟子のうち、これまで「火」の百火と「木」の華紋が登場しましたが――お人好しの百火とある意味自由人の華紋は早々に摩緒と戦う気はなくしたものの、西からやってきた謎の敵が摩緒を執拗に狙います。
京都に潜み、魚や蛙、水を武器とするその敵に真っ先にぶつかることになったのは意外にも華紋。御降家の名を名乗り、金持ち相手に延命術をかけていた相手に興味を持って京都に乗り込んだ彼を待っていたのは、同じく「水」の術者・不知火だったのですが……
痛み分けに終わった二人の対決の後、東京に現れたのは、不知火を兄と呼ぶ謎の女・幽羅子。政財界のお偉方のサロンに出没する彼女と不知火の関係を疑う華紋と摩緒ですが、二人が見た女の素顔は、あり得るはずのない人物のものだったのであります。
さらに摩緒を襲う奇怪な金属製の式神。それを操るのは、日露戦争で重傷を負ったという鉄仮面の軍人・白州――しかしその正体は「金」の術者・白眉……?
と、謎が謎呼ぶという表現が最も相応しいこの第5巻。物語当初の謎であった菜花と猫鬼の関係がかなり早い段階で解けたと思いきや、それはむしろ序章に過ぎず、摩緒の五人の兄弟子が――という、平安に由来する因縁にまつわる展開は、関係者が多いということもあって(?)一気に物語を複雑にした印象があります。
五人の兄弟子は、うち四人が(おそらく)登場したわけですが、ヘタレ強気キャラというべき百火はともかく、マイペース冷酷キャラに見えた華紋が、そのマイペースさを発揮して、早くも摩緒たちと行動を共にし始めるのが何とも面白い。
いつの間にかこの二人が摩緒の家でたむろってる姿は実に愉快で、ある意味作者らしい名(迷)シーンなのですが――しかし新たな兄弟子たちは剣呑で、謎の多い面々であります。
そもそもこの五人、互いが互いの顔を知らないというのがミソで、実際に顔を合わせるまで、誰が師に選ばれたかわからないというのが実に面白い設定。
もちろんそれぞれが五行の術の代表者であるわけで、顔を合わせなくともそれなりに誰が選ばれたか予想はつくはずなのですが――三人目はその裏をかいたようなキャラクターなのには、なるほど、と感心させられました。
(そして四人目も、仮面で素顔を隠しているため、本当に本人なのかあからさまに怪しいのですが……)
正直なところこの巻は冒頭とラストにあるくらいで、アクションはかなり少なめで、ある意味静かな展開ではあるのですが、その静かな中に不穏なものが渦巻いているのが、何ともたまらなく魅力的に感じられます。
と、摩緒の側の――大正と平安の側の物語にばかり光が当たっているように見えますが、しかし菜花の側も、負けじとばかりに(?)不穏な動きを見せます。
そもそも、摩緒と同様に猫鬼に呪われた身であり、今は猫鬼の身が摩緒と融合しているためにある種の猶予があるものの、猫鬼の器として依然狙われている菜花。
当然、摩緒の手によって様々な防御策が施されているわけですが、しかしそれを掻い潜って猫鬼は幾度も菜花の前に現れることになります(特に第5話中盤の展開は、思わず声が出るほど怖い)。
しかしそこでむしろ菜花に助言ともとれる言葉をかける猫鬼。なるほど、五人の兄弟子の方に気を取られていましたが、そもそも摩緒と猫鬼との因縁、そして摩緒の許嫁であった紗那の運命には、まだまだ不明な点・不審な点があります。摩緒の記憶が不確かな以上、その真相を知るのはもはや猫鬼しかいないわけなのですが……
この巻の終盤で判明するある事実(それとて不審な点が山盛りなのですが)によって交錯する五人の兄弟子の件と、摩緒と猫鬼の因縁。平安と大正、そして現代――三つの時代が交わる物語の真の姿が見えるまで、まだしばらくかかりそうであります。
もちろんそれがたまらなく嬉しく感じられるのですが。
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