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2020.08.15

『大江戸もののけ物語』 第五話「さらば天の邪鬼」

 おようから思いもよらぬ別れを告げられ、意気消沈する一馬を襲う突然の怪現象。それは度重なる敗北に業を煮やした百鬼の仕業だった。寺子屋を襲った百鬼の手下たちとの戦いで傷ついた一馬の前に現れた百鬼。百鬼に叩きのめされた一馬のもとに、自ら百鬼の封印を解いた天の邪鬼が駆けつけるが……

 これまで、人間に取り憑いて襲いかかる、手下の一つ目小僧に命じて殺そうとするなどと、執拗に一馬の命を狙ってきた百鬼。毎回炎に包まれた謎空間で大見得を切っていた、如何にも大物然とした(藤本隆宏のえらく張りの良い声がまたその印象に輪をかける)百鬼ですが、しかし妖怪の友達がいるほかは基本的にただの若者の一馬を躍起になって狙う必要があるのか――という疑問の答えは、この最終回に描かれることになります。

 実は百鬼こそは、妖怪たちの中でも反人間派の急先鋒たる存在。二百年前には江戸で大火を起こして人々を苦しめ、融和派の妖怪たちと激闘を繰り広げた末、ようやく追放されたという強豪だというではありませんか。
 と、いちばんくわしい一馬の妖怪図鑑にも載っていなかった(それでも百鬼のことは載っていたのはさすが)この大秘事を知っていたのは清庵和尚。如何にも只者ではなさげとはいえ、何故そこまで――といえば、実は寺に南光坊天海がその辺りのことを残していた、といういきなり伝奇的な話にびっくりであります。
(ちなみに百鬼が起こした大火とは、おそらく明暦の大火(1657年)なののでしょう。本作は第1話冒頭時点で天保5年(1835年)の設定ですが、まあ誤差ということで)

 やはりそんな大物に一馬が狙われるのは謎に思われますが、清庵によれば、人間と妖怪がかつてのように手を取り合うには、一馬のような清い心の人間が必要とのこと。これは裏返せば一馬がいなければ妖怪と人間は反目する――ということになりますが、本当に広い江戸に一馬しかいないのか、という気はいたします。

 確かに天の邪鬼は、一馬のような妖怪と分け隔てなく接してくれる人間はほかにいないと語ります。また、百鬼は人間たちによって妖怪たちが虐げられ、日陰に追いやられてきたことを以て、自分たちが人間たちを攻撃することの正当性を主張します。
 しかしこの辺り、本作における人間界での妖怪の扱い、簡単に言ってしまえば妖怪に対する一般人の態度がほとんど全く描かれていないので、あまりピンとこないというのが正直なところです。

 これがもし、作中で妖怪が実際に人間に虐げられている描写があったり、あるいは妖怪を信じている一馬が周囲から手ひどく嘲られる描写でもあれば納得できるのですが、それがないので、一馬の重要性もまた伝わってこないのです。(そもそも基本的に人間に妖怪は見えないわけで、虐げようがない……)

 この辺り、物語のスケールを引き上げようと大上段に構えて、かえって逆効果になってしまった印象なのですが――そのほかにも、最終回の物語のメインにおようのエピソードが絡んでこなかったり(ラストの一馬の決意も、冒頭で両親が既に結婚を認めてしまっているのであまりハードルが高く見えない)、天の邪鬼が百鬼に決定的に敵対しなかった理由が、説明されたほとんど次の瞬間に覆されてしまったりと、ちょっともやもやする展開が多かったと感じます。
 特に後者は、なるほど! と感心すると同時に、ここで一馬と新海家、天の邪鬼と百鬼の関係を対比させてくるのかと思いきや、いきなり――だったので脱力してしまった、というのが正直なところであります。


 と、ネガティブな面ばかり取り上げてしまい非常に恐縮なのですが、実は三人の妖怪は子供の頃から一馬の周囲にいたことがラストになって明らかになったり、もう妖怪たちを見ることができなくなった(角川の『妖怪大戦争』感!)一馬が別の形で人間と妖怪のかけ橋となったり、そこで作品タイトルの意味が回収されたりと、よい演出、好みの展開は色々とあったのも、紛れもない事実であります。

 何よりも、登場する妖怪たちのデザインや、出演陣の熱演(特にほとんど素顔の見えない河童役の青山美郷さんには頭が下がります)など、妖怪時代劇として楽しめる部分は多かったのは確かで、全5話という短い話数ではなく、もっと長めで観たかった(そうすれば上記の人間と妖怪の関係性の部分ももう少し補えたのでは……)というのは、偽らざる心境であります。
 妖怪時代劇好きとしては、やはりオリジナルの妖怪時代劇シリーズというだけで、もう本当に嬉しいのですから……


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