赤名修『賊軍 土方歳三』第1巻 奇想天外で「らしい」最後の新選組物語
赤名修で新選組といえば、20年近く前に発表された、新選組の初期を描いた『ダンダラ』を思い出しますが、本作は新選組の終焉を描く作品――沖田総司の「死」に始まり、会津から箱館に至る土方の姿を描く物語であります。
本作の冒頭に登場するのは、江戸千駄ヶ谷の植木屋平五郎方の離れ座敷――新選組ファンであれば言うまでもなく、こここそは沖田総司が労咳の療養に当たっていた場所であり、そして彼の最期の地であります。
そしてそこに一人現れたのは土方歳三――という今度は新選組ファンであればこそ度肝を抜かれるような場面から、本作は始まることになります。
史実であればこの時期土方は宇都宮城の戦いで足を負傷し、一時戦線離脱、そのまま会津に運ばれ、療養していたこととなっていますが――まさにその時期に、近藤勇が斬首され、そして沖田が世を去ったことになります。
しかし本作においては、勝海舟からの密書により近藤斬首を知らされた土方は、足の負傷を装うと親戚の土方勇太郎を影武者に立てて戦線離脱。板橋で近藤の最期を見届け、その遺志を胸に、沖田のもとを訪れたというではありませんか。
沖田を箱館、そしてパリに誘う土方は、沖田に甲府で戦死した(!)市村鉄之助の名を名乗るように命じて……
と、冒頭から度肝を抜く展開が連続する本作。沖田生存という、(その最期がある意味劇的なだけに)新選組ものでも比較的珍しい展開だけでなく、会津以降で土方といえば切っても切れない市村鉄之助の名を沖田が名乗るというのも、これまた意表を突く展開としか言いようがありません。
さらにこの土方・沖田改め市村コンビは、会津に戻る前に京は三条河原に向かい、晒された近藤の首を奪還することに――とくれば、もう何でもありのようにも感じられます。
しかし意外に土方と沖田の――そしてその後の会津での彼新選組の――姿が地に足の着いたものとして感じられるのは、画力には定評のある作者ならではの筆によるところが大きいと言えるでしょう。
特に土方や沖田、そして島田魁や山口二郎らのビジュアル――更に言えばその彼らの表情や、時にちょっと剣呑に過ぎる言動の一つ一つは、実に「らしい」。その姿は、我々のイメージ通りの、そして我々の見たかった彼らのものであるのが、実に嬉しいところであります。
さて会津に至るまでの展開が長かったためか、この巻で描かれるのは会津天寧寺に近藤の墓が作られるまで。しかも次の巻の予告によれば池田屋事件が描かれるようですから、箱館まで、そして物語冒頭で土方が語った壮大な夢は、まだまだ先のことになりそうです。(あるいはそれこそ『ダンダラ』リベンジのような形になるのか……)
そして果たしてその夢が叶うのかどうか――いまだ謎の多い土方歳三の賊軍での、最後の戦いは、まだまだ始まったばかりなのであります。
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