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2020.08.12

「コミック乱ツインズ」2020年9月号(その一)

 お盆のためか発売がいつもより少し早い「コミック乱ツインズ」9月号は、シリーズ連載開始のやまさき拓味『雑兵物語 明日はどっちへ』が表紙&巻頭カラー。レギュラー連載陣もほとんど揃った内容であります。今回も印象に残った作品をピックアップして(といっても結構多いのですが)ご紹介します。

『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)
 シリーズ連載開始となった本作は、タイトル通りに戦国時代の雑兵=足軽コンビを主人公とする物語。15歳の捨丸と13歳の春――どちらもまだ少年でありながら、戦乱の中で家族をはじめとする全てを失った二人が、足軽となって合戦の場で出会う姿が、この第1話では描かれることになります。
 しかし二人が足軽として参加したのが、長篠城――徳川方の最前線の城として、武田勝頼の猛攻を受けたあの城なのですから、二人の運命は推して知るべし。この長篠城での戦いでは、鳥居強右衛門の逸話が有名ですが、二人はそこに全く絡むことなく(というかそんな格好良い逸話は全く描かれず)、城外での乱戦であっという間に蹴散らされ、何とか生き延びるのですが……

 というわけで予想通りいきなり辛い目に遭うことになる二人ですが、そこで浮き彫りになるのは、百姓を幸せにするために天下を取りたいと青臭いことを語る春と、生き抜くためには裏切りも寝返りもアリと断じる捨丸の対象的な生き様。しかしそんな身も蓋もない捨丸の生き方を、ローリング・ストーンと言い切ってみせるのが素晴らしいところであります。
 といってもこの先ライク・ア・ローリングストーンなことにはならないでほしいのですが――本誌には百姓が侍を目指すとろくな事にならない実例もあり、さて二人の明日はどっちでしょう。


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 自分が周囲の思惑に操られるように剣を振るっていること、さりとて自分にはそれ以外の生き様はないことを突きつけられた佐内。しかし自分の家に帰ってみれば、そこには清楚でうら若き美女が――というある意味衝撃の展開から続くことになった今回。
 そんな彼女の名は満枝、おしまさんと同じ長屋に住む手習い師匠の娘ということですが――(佐内的に)ヒロイン枠がいないことに業を煮やしたおしまさんのお節介おばさんムーブで送り込まれた模様であります。

 しかし、本作にそんな絵に描いたようなヒロインが登場するものでしょうか!? 実は何とかトラップというやつでは? 白子屋だったらそれくらいのことは……(白子屋って誰よ)
 というこちらの疑念はさておき、ここでラッキーなどと思えぬのが佐内の草食系剣客たる所以。人斬りとしての自分の宿業、そして一度は振り払ったかに見えて未だ振り払えぬ姿なき仇敵への恐怖と、今回も彼の悩みは続きます。

 そんなわけで今回は静かな回ではありましたが、しかしそんな彼の前に謎の影が現れ――と、波乱含みに続きます。


『いちげき』(松本次郎&永井義男)
 まだまだ続く丑五郎と伊牟田のラストバトル――仲間も理想も目的も、恋人も失って(というか丑五郎の場合は最初からいなかったという現実が明らかになって)もう本当に自分の命しか残っていない二人のどん詰りバトルは、伊牟田についに限界が近づいたことと、その伊牟田の策で牛五郎が機動力を奪われたことで、小休止状態を迎えることになります。

 命懸けというも愚かな限界バトルの中で、妙にすっとぼけた描写が飛び出すのは本作の面白いところですが、今回はその中で、丑五郎と伊牟田の間に束の間の、そしておそらくは初めての、心の交流のようなものが生まれるのが印象に残ります。

 しかしその中で再確認させられるのは、二人が、いや死んでいった人々が巨大な流れに飲まれていただけに過ぎないということと、そしてやはり二人には戦い合うしかないという事実。
 それでも何となく未来への希望を手に入れたように見える丑五郎ですが――先月号を読んでいる我々にはそれが偽りでしかないことを知っているのです。嗚呼!


 長くなりましたので次回に続きます。


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