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2020.08.28

杉山小弥花『大正電氣バスターズ』第2巻 物語は一気に核心へ そして二人はあわいを抜け出す

 大正時代末――震災後の東京を舞台にスリの不良少女・おりょうと学生陰陽師・烏丸晴哉(チカ)が、人の心を蝕む悪霊と対峙する物語の第2巻、完結巻であります。チカの中に潜む闇の陰陽師の正体は、チカとの対決の結末は、そして二人の想いの行方は……

 関東大震災で家と両親を失い、一匹狼のスリとして暮らすアーメンおりょう。銀座で連続する通り魔騒動に巻き込まれた彼女は、その元凶である悪霊たちを封じているという陰陽師の少年・チカと出会うことになります。
 自分が巫女体質であることを知らされたおりょうは、意気投合したチカと「鷹の目団」を結成、東京を騒がす悪霊の跳梁に挑むことになります。

 そんなある日、鷹の目団の周囲を嗅ぎ回る新聞記者・関に憑いた悪霊と対峙した二人ですが、その最中にアクシデントでチカが喪心。そして次の瞬間目覚めたのは、チカにしてチカにあらざる何者か――それは、チカの中に封じられていた闇の陰陽師、一連の悪霊騒動の陰で糸を引く存在だったのであります。
 その場は何とかチカを元に戻したおりょうですが、しかし続く事件で、彼女はチカの家庭の事情を、彼の人格を形成してきた環境を知ることになります。さらに謎の「片足の国」を作り出そうとする闇の陰陽師の正体をも知るおりょうですが、それこそはチカの……


 冒頭に述べたとおり、残念ながらこの巻で完結となる本作。そのためもあってか、この巻では冒頭から一気に物語の核心に迫る展開が続くことになります。
 第1巻の時点ではあまりはっきりとはしていなかったチカの側の事情。一高に通いながら陰陽師として活動する彼の素性や行動理由には今ひとつ謎が多かったのですが――それがこの巻の前半で、一気に明らかになるのであります。

 地方の名家に生まれ、陰陽師としての血と力を継ぎながらもどこか斜に構え、(おりょう以外の)他人の前では仮面を被って自分の素顔を明らかにしようとしなかったチカ。
 そして彼の物語を通じて語られるのは、チカが仮面を被るその理由と仮面の正体、そして彼もまた、あの震災で近しい者を喪っていたという事実。そしてそれこそが全ての事件の源となるのですが――しかし物語はここから全く予想しなかったような展開を見せることになるのです。

 前作でも顕著だったように、ミステリ的趣向を得意とする作者だけに、その詳細を語れないのが心苦しいところではあります。
 しかしこの巻の後半に入った辺り、何故か意識を失っていたおりょうが病院で目覚めてみれば時は「昭和二年」、そして彼女は我々が知る名とは異なる名で呼ばれて――この展開には、正直なところ度肝を抜かれました。

 そしてそこから彼女が過去を思い出す形で描かれていく、間の物語とは――いやはや、これがまたこうくるか! という展開の連続。窮地に陥ったチカを救うためのおりょうの一策が思わぬ(本当に思わぬ!)結果を生み、そしてそこから物語は思わぬ形で史実と重なって……
 語れないなどと言いつつだいぶ書いてしまいましたが、しかしこの先は本当にシビれる展開の連続であることは間違いありません。

 本作の舞台は、関東大震災後の「大正」という、かなり短い上に、史実の上での(本作に影響しそうな)目立った出来事も少ない時期。それが正直なところ足かせになっていたのでは、という印象もあったのですが――いやいや、大事な大事な出来事がありました。
 そしてそれがタイトルに重なりつつ、最終決戦に雪崩れ込んでいく展開には、ただ鳥肌が立ちました。

 そしてもちろん戦いだけでなく、その中で並行して描かれるのは、おりょうとチカという、孤独で意地っ張りで、めんどくさい二人の想いの行方であります。
 己が己であるために他者を拒絶し、自分自身の足で立つことを選びながらも、それでも生きていくために誰かを必要とする――そんな相当にこじれた(しかし誰でも多かれ少なかれ重なる部分がある)二人が、どのような結末を迎えるのか。いや、その結末までにどのような過程を経るのか?

 その点も含めて、最後の最後まで(おまけページに至るまで)期待は裏切られることはなかった、と心から思います。


 大正という時代には、個人的には間(あわい)というイメージがあります。明治のように近世を引きずっていない、昭和のように現代に繋がっていくわけでもない――そんなどこか中途半端で、モラトリアムめいた時代と。
 本作は、ある意味そんな時代の申し子であった二人が、そのあわいを抜け出して、自分たち自身のあるべき姿を見出し、自分たち自身の意思で新たな道を歩き出すまでを描いた、そんな物語だった――そう感じます。


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