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2020.08.04

『啄木鳥探偵處』 第二首「魔窟の女」

 堅物の京助をけしかけて浅草の私娼窟に繰り出した啄木。京助はそこでお滝という女郎をあてがわれるが――その晩、下宿に警察が現れ、お滝が刺し殺され、現場に京助がいたと啄木が証言したと告げる。互いに嘘の証言をしたと激しく言い争う京助と啄木だが、ついに京助は逮捕されることに……

 原作ではラストのエピソード(といっても時系列では初期なのですが)を実質最初に持ってくるというちょっとユニークな構成となった今回。しかし内容としては最初の事件どころか、探偵處が空中分解しかねない大変なお話であります。
 というのも浅草の魔窟、すなわち私娼窟で女郎が殺され、その犯人が京助と疑われる――のはまだしも、それを指摘したのが啄木だというのですから。今回はそのエピソードのいわば前編、事件のあらましから京助が逮捕されてしまうまでが描かれるのですが、その描き方がちょっとユニークであります。

 相変わらず酒と女に溺れる自分を非難する京助を、女を知らないとからかい、「どどど童貞ちゃうわい!」となったところを逆に私娼窟に引っ張り出した啄木。そこで自分はちゃっかりと馴染みの敵娼のところにしけこみ、お隣の部屋の京助とお滝なる女の様子に聞き耳を立てる啄木ですが――初めは何となくいいムードだったのが、やがてお滝の方が激昂、京助も憤然と店を出て下宿に帰ることになります。
 ところがその直後、短刀を突き立てられて血塗れになったお滝の死体が発見されて――というわけで京助は当然のように第一容疑者になったわけですが、その模様を、最初は啄木視点(聴点?)で、次に京助視点から別々に語り直すのが面白い。

 立場的には客観性のある啄木ですが、しかし彼はあくまでも隣の部屋から聞き耳を立てているに過ぎない状態、しかも途中でムラムラきた敵娼に押し倒されかかったりして、ところどころの情報が抜けている状況にあります。
 一方の京助の方は、当然ながら当事者であり、啄木が音だけで受け取っていたものが、客観的な情報のようでいて実は主観的な解釈に過ぎなかったことを明らかにするのですが――しかしその典型例が、エロいことをしているかと思ったら肩を揉んでもらっていただけだったという、今どきこれか!? という展開だったのを何と評すべきか――しかしそれもまた、京助の主観的な情報に過ぎない(かもしれない)のであります。

 ところでこの「藪の中」状態において、数少ない啄木が「見た」と証言しているのは、お滝が死体となった時間帯に京助が同じ部屋にいたというものなのですが――しかし作中の描写を見れば、この証言の真偽も怪しいものであります。現にお滝の部屋には、啄木のローマ字日記と二枚の銅貨が残されていたのですが――しかし仮に啄木の証言が嘘であったとしたら、何故そんなことをしたのか。啄木の方が犯人だとしたら、彼の動機は何なのか?

 あるいは第三者が犯人だとしても、啄木が京助を犯人に仕立て上げる理由が不明なのは変わらず――いずれにせよ売り言葉に買い言葉でお互いが犯人だと罵り合うことになった二人は、早くもコンビ解消の危機であります。
 そこでラストにはミルクホール三人組(相変わらず胡堂以外は誰が誰かわかりにくい)野村胡堂・吉井勇・萩原朔太郎のトリオが立ち上がるのですが――主役コンビ以外が謎に挑んでいいのかしら? という展開で次回に続きます。


 と、さすがに第2話にして、しかも探偵處に持ち込まれた事件でないものでこの危機というのは、構成としていかがなものか――というのは強く感じてしまうのですが、逆に言えばお互いのキャラクターが(少なくとも視聴者には)まだよくわかっていない初期の段階だからこそ仕掛けられるエピソードなのかもしれません。
 少なくとも啄木のヒューマンダストっぷりは前回以上によく伝わってくる展開ではあることは間違いありません、というか本当にこの展開で二人の友情は大丈夫なのだろうか――と、ある意味次回が非常に気になるヒキであります。


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