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2020.08.09

金子ユミ『千手學園少年探偵團 図書室の怪人』 永人の前の呪いと謎と問いかけと

 大正時代、良家の子弟が集まる名門私立・千手學園に突然放り込まれた少年・檜垣永人と仲間たちが繰り広げるユニークな探偵譚の第二弾であります。今日も奇怪な呪いの噂が飛び交う學園で、永人が見た真実とは、そして突然示された人生の岐路での永人の選択は……

 浅草で母と暮らしていたところを、突然千手學園に通わされることとなった永人。実は彼は大蔵大臣の庶子――実家とは無縁の扱いだったものの、學園に通っていた檜垣家の嫡男・蒼太郎が謎の失踪を遂げたことから、彼の代わりに引っ張り出されたのであります。
 學園の奇妙な噂や人間関係、自分に対する嘲りや好奇の目に反発する永人。しかし彼の型にはまらない破天荒な行動は、やがて周囲の人々を惹き付けていくこととなります。

 かくて、双子の兄で探偵小説好きの来碕慧、その弟で寡黙に兄を支える昊、用務員一家の一人娘で學園内では男装している乃絵――そんな面々と成り行きから(本人は非常に不本意ながら)少年探偵團として活動することとなった永人は、學園の奇怪な噂の裏側にあるものを次々と暴いていくことに……

 というわけで、本作においても、永人たちは次々と奇妙でユニークな事件に挑むことになります。

 図書室の書架の間で迷子となり衰弱死した生徒の魂が二つの目になってさまようという図書室の怪人の騒動に巻き込まれた永人が、思わぬ秘密の存在を知る「図書室の怪人」
 絵画展で特選を受賞し銀行のロビーに飾られることとなった生徒の絵画が、写生会の最中に忽然と消失する「美術室の想い人」
 薔薇の花が恋した生徒の恋人を食らったという噂が残る温室で見つかった、人型に盛り上げられた薔薇の花びらの怪と、奇妙な言動を見せる絶世の美少年の想いが意外な形で交錯する「温室の地図」

 どの事件においても、背景となる學園の噂の奇妙さ・奇怪さや、登場するゲストキャラクターたちの個性の強さ(特に「温室の地図」の美少年・比井野のキャラクターはあまりに強烈!)など、前作でも魅力的であった要素は、今回も健在。そしてそれとともに謎解き部分の面白さも、大仕掛けなトリックあり、人間の心理の綾ありと、よりパワーアップした感があります。

 そして何よりも、謎や難物たちにべらんめえ調にぶつかっていく永人の言動が実にいいのですが――しかし本作は、単純明快で、痛快一辺倒の物語で終わるわけでは決してありません。むしろそれとは反対に、重く苦い後味を感じさせる部分が少なくないのです。


 謎に挑み、解き明かすの過程で、そしそのて真相において永人が垣間見るもの――それこそは、ひどく生々しく、そして秘め隠された人の情であります。それは、当時の日本のエスタブリッシュメントを輩出する学び舎には不釣り合いな、毒々しい欲望と本音であり――その存在は、複雑な立場に在る永人の心を大きくかき乱すことになります。
 そう、事件の数々を通じて永人が対峙するのは、自分の生きたいように生きられない世の中のままならなさであり、そして自儘に振る舞い持たざる者を嘲り見下す人々の存在です。そしてそれらこそは、永人もまた苦しめられてきたものにほかなりません。そんな中において、どうすれば胸を張って、自分らしく自由に生きていくことができるのか――それは特に永人の年頃においては普遍的な問いかけであるかもしれませんが、しかし本作においては、その時代背景と謎の数々を通すことにより、より鋭く厳しいものとして浮き彫りになっているのです。


 しかし本作は、その問いかけを投げかけるだけで終わってしまうわけでは――今の現実が絶対であると語るだけでは終わりません。
 本作の掉尾を飾る「回廊の白蛇」――浅草の母のもとに帰れるという檜垣家の「姉」の言葉に揺れる永人の想いと、それを目撃したものは呪われるという、深夜に寄宿舎の廊下を這い回る巨大な白蛇の謎を巡る物語の中で描かれるのは、その答えの一端であり、そして永人が歩むべき道なのですから。

 もちろんその内容をここで述べることはできませんが、本作で数少ない本物の「大人」(散々永人を振り回す陰謀家の生徒会長・東堂を感じ入らせる場面は圧巻!)の口から語られるそれは、永人にとって、そして我々にとっても一つの希望であり――そしてそれこそが本作が学び舎を舞台として描かれる所以であると、述べることはできるでしょう。

 そして永人の學園生活は――すなわち探偵團の活動は、この先も続くことになります。
 しかしまだまだ學園には奇怪な謎が蠢き、東堂たちの腹の中もまだまだ底が知れません。そんな中で永人が何を見るのか――9月に発売予定の第三弾にも期待が高まります。


『千手學園少年探偵團 図書室の怪人』(金子ユミ 光文社キャラクター文庫) Amazon

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