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2020.08.03

久正人『ジャバウォッキー1914』第1巻 相棒から家族へ 新たな恐竜と人間の物語

 歴史の陰で密かに活動してきた恐竜人たちと人間の繰り広げる伝奇冒険活劇『ジャバウォッキー』の続編にして後日譚であります。前作から約四半世紀の後、第一次世界大戦の裏側で蠢く恐竜人たちの陰謀に対し、新たな恐竜と人間のコンビの冒険が始まります。

 人類史上初の世界戦争が始まって2年――戦線が次第に膠着しつつある中、イギリス軍とドイツ軍がにらみ合うソンム。その戦場に投入されたイギリス軍の新兵器・戦車の強靭な装甲と強力な武装に、塹壕に篭もるドイツ兵たちは次々と命を落としていくのでした。
 そんな地獄に現れたのは、戦場には不似合いな少年と少女――鉄兜を被り、拳銃を片手にした少年・サモエドと、オートバイに乗った少女・シェルティ。戦場の何でも屋・アプリコット商会の主力である彼ら「鉄馬の竜騎兵(ハーレー・ドラグーン)」は、ドイツ兵を逃がすため、戦車に立ち向かうことになります。

 一方その頃、ドイツ軍の司令部に潜入した彼らの「母」、リリー・アプリコットは、ドイツ軍の内部に食い込んだ「殻の中の騎士団(ナイツ・イン・ザ・シェル)」――すなわち恐竜の復権を目論み、この戦争で暗躍する恐竜と対峙。騎士団は、戦車という強力な新兵器を投入することによって更に戦闘を激化させ、より多くの人間を殺し合わせようとしていたのであります。

 兄妹の活躍によって次々と撃破されていく戦車。しかし追い詰められた恐竜たちはさらに強大な兵器を起動させ、更なる人間の死をもたらそうと動き出します。人間たちを逃がすために、サモエドとシェルティ――オヴィラプトルの少年と人間の少女は、決死の戦いを挑むのですが……


 19世紀末を舞台に、人間と恐竜の共存を目指す「イフの城」に所属する恐竜のガンマン・サバタと、人間の元スパイ・リリーのコンビの活躍を描いた前作。それから時は流れ、本作は1914年に始まった第一次世界大戦を舞台とした物語であります。

 リリーも約四半世紀の年を重ね、アプリコット商会の主としてそれなりの貫禄を見せる身となり、そして何よりも恐竜と人間、二人の子持ちに――ってそれは!?
 いくらリリーとサバタがいい感じだったからといって、いくら何でもリリーがサモエドの卵を生むはずもありません。だとすればシェルティの父はいったい――いや、何よりもサバタは何処へ……

 というこちらの興味を絶妙にじらしつつ展開していく最初のエピソード「フランス共和国ソンム 1916年9月」は、元々前後編の読切として想定されていただけあって、全ての要素が小気味よいほどに見事に絡み合い、作り上げられた、ファーストエピソードのお手本のような物語であります。

 「@」という文字の読み方という、一見全く関係ないような、しかしそれだけに大いに心そそられる幕開けから、戦車の猛威とそれに立ち向かう主人公二人のいい意味で緊張感のないやりとり、そしてリリーと恐竜人の登場、そしてサモエドの素顔――と、前編の時点で、流れるように作品世界に引きずり込んでくれるのはさすがというほかありません。
 そして後半ではさらにバトルは激化するわけですが――それだけに終わらず、そこで描かれるのは、サモエドの素顔を見たドイツ兵たちの反応と、さらにそれに対するシェルティの反応。そしてそこから浮かび上がるのは、人間と恐竜の――いや、「家族」という言葉で象徴される、この世に生きる者同士の関係性とであります。

 そして「相棒」からより踏み込んだ「家族」という関係性こそは、本作が『ジャバウォッキー』の単に時系列的な先を描いただけでなく、その物語の中にあったものの更に先を描いてみせた象徴ではないか――と、いきなり結論めいたことを述べてしまいましたが、少なくとも本作が、前作とはまた異なる方向性の物語であることは間違いないでしょう。


 さて、続くエピソード「中華民国青島 1916年10月」では、あの嘉納治五郎が登場。どうやら彼はリリーの空白の過去にも関わりがあるようですが――しかし物語は日本軍の音響兵器を巡り急展開することになります。
 恐竜と人間の、サモエドとシェルティの絆を早くも試すような敵の魔手に、二人の、家族の絆は打ち勝つことができるのか。第2巻以降も近日中にご紹介いたします。


『ジャバウォッキー1914』第1巻(久正人 講談社シリウスKC) Amazon

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