« 戸部新十郎『秘剣龍牙』(その二) | トップページ | 重野なおき『信長の忍び』第17巻 大海戦とと裏切りと――恋と? »

2020.10.01

『啄木鳥探偵處』 第九首「仕遂げしこと」

 屋敷の天井裏で鑑の弟のシャツのボタンを見つけた啄木。その啄木に、環は夫の園部が教会の慈善事業に隠れて子供の人身売買をしていると語る。そんな中、平井太郎から鑑の家に幽霊が出ると聞いた啄木は、そこである物を発見し、園部邸に走る。しかし時既に遅く、園部は何者かに殺されたと環は語るが……

 前回、男装の麗人・環から、自分の家に届く脅迫状を調べて欲しいと依頼された啄木。興行主である環の夫の園部は、軽業師・鑑を事故に見せかけて殺したとして逮捕され、しかも人身売買に手を染めていると告発されたものの、結局は無罪放免されたというのですが――この脅迫状は、鑑の弟によるものに違いないと語る環に、啄木は徐々に惹かれていくことになります。
 しかし脅迫状はどんどんエスカレートし、ついには間近で監視しているとしか思えないレベルの内容になっていって……

 というところで解決編なのですが――前回感じた予感は当たり、今回も江戸川乱歩作品がベースになるという、ちょっと不思議な内容となっています。その作品とは、エンディングに「参考」とクレジットされた『陰獣』――乱歩作品の中でも人気の高い、中編推理小説であります。

 というわけで今回も、原典未読の方のためにも本作未見の方のためにも、内容について触れにくいのですが、ほとんどディテールまで原典を引いていた前々回の『二銭銅貨』に比べれば、今回はかなりアレンジが加わっていたと言えます。共通するのは、依頼人の妖しげな美女、姿なき脅迫者、依頼人の夫の死、犯人は○○○○――といった要素(あとはシャツのボタン)くらいで、正直なところ、言われなければかなりわかりにくいという印象があります。
 もちろんそこには本作の縦糸である「告発者X」による、殺人事件を通じた悪の告発という要素が絡んでいるという点も大きいのですが、最大の相違点は、やはりヒロインの造形であろうかと思います。

 原典のヒロインが多分に妖女めいた存在であったのに対して(そしてそこから来る濃厚なエロティシズムが原典の大きな特色であったわけで)、本作の環はむしろ逆――教会で奉仕活動を行っているという点がおそらくは象徴しているように、聖女的なイメージを与えられているやに感じられます。
 そして己の病がもたらす死への怯えから、虚無的な心境に陥っていた啄木に対し、人が生きる意味を語り、その指針として社会主義運動を示した環は、単に美女であるからというだけでなく、啄木に対しては運命の女性となったといえるのでしょう。
(それでのぼせ上がった啄木が、教会に寄付するために京助に借りた本を売ろうとするあたりは毎度ながらのダメ人間っぷりで、シリアス度が高い今回では逆に息抜きになりました)

 ただし、そうするとわざわざ『陰獣』を持ってくる必然性がどこまであるのかなあ――と感じてしまうのも正直なところで、同じような内容にしても、もう少しオリジナルで頑張ってみてもよかったのでは、という気はいたします。
 もう一つ、またまた依頼人が○○だった、というパターンなのも(毎回書いていますが)個人的には気に入らないところではありました。原典とは違い、完全に第三者の啄木を巻き込むことは危険性を高めるだけだったように感じられることもあり……

 結局のところ、前々回も申し上げたとおり、歴とした原作小説がある作品で、他の作家の作品を原案とするのはどう考えても必然性が薄いと感じるばかりで――環のキャラクター造形や啄木との関係性は悪くなかっただけに、なおさら首を傾げてしまうのであります。


 ちなみに今回も平井太郎少年は探偵顔負けの活躍振りで、彼が探偵の方がいいのでは、いやむしろここまで来ると彼が全ての筋書きを書いているのでは(いやまあ今回と前々回はメタな意味でそうなんですが)――などと、半ば本気で考えてしまったりするのであります。


『啄木鳥探偵處』三(Happinet Blu-rayソフト) Amazon

関連記事
 『啄木鳥探偵處』 第一首「こころよい仕事」
 『啄木鳥探偵處』 第二首「魔窟の女」
 『啄木鳥探偵處』 第三首「さりげない言葉」
 『啄木鳥探偵處』 第四首「高塔奇譚」
 『啄木鳥探偵處』 第五首「にくいあん畜生」
 『啄木鳥探偵處』 第六首「忍冬」
 『啄木鳥探偵處』 第七首「紳士盗賊」
 『啄木鳥探偵處』 第八首「若きおとこ」

 「啄木鳥探偵處」 探偵啄木、浅草を往く

|

« 戸部新十郎『秘剣龍牙』(その二) | トップページ | 重野なおき『信長の忍び』第17巻 大海戦とと裏切りと――恋と? »