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2020.09.03

星野之宣『海帝』第6巻 激突、秘密兵器入り乱れる大艦隊戦!

 明の時代、大艦隊を率いて西方に向かった鄭和の冒険を描く本作もいよいよ佳境であります。最後の目的地である古里(カリカット)に向かう鄭和ですが、その前に思わぬ強敵が出現、壮絶な艦隊戦が繰り広げられることに……

 主である永楽帝に逆らい、先帝・建文帝とその娘を逃がすべく、密かに艦隊に匿ってきた鄭和。秘密機関・西廠との死闘をくぐり抜け、ついに錫蘭(セイロン)で二人と別れた鄭和ですが、彼自身の旅はまだ続きます。

 ある日艦隊の前に現れた、黒死病患者を満載した死霊船(幽霊船)。その存在にいち早く気付いた射馬九郎ら黒市党のおかげで惨事は逃れることはできたのですが、黒死病こそが、黒市党にとっては決して忘れられない敵であることが前巻では語られました。
 かつては青市島(!)で平和に暮らしていた彼らの生活を一変させ、差別と苦難の日々を送らせることとなった黒死病。その黒死病を、何らかの意図を――すなわち、一種の生物兵器として使っているものがいることが、この巻の冒頭では判明することになります。

 そんな非道は決して許せないと闘志を燃やす黒市党の偵察によって判明したのは、溜山国(モルディブ)を支配する女王・ハディージャ2世の存在。かつて蘇門答刺の戦いで鄭和に討たれたイスラムの武器商人・ターリクの恋人であった彼女は、復讐のために手ぐすね引いて鄭和の艦隊を待ち構えていたのであります。
 しかし鄭和の艦隊は、現代の目で見ても桁外れとしか言いようのない巨大艦隊。その艦隊を襲撃するとは、(いかに黒死病を武器にしたとしても)無謀以外の何物でもないように感じられますが――ここで物を言うのが溜山の地形であります。

 無数の小さな群島の集合であり、その内部に入るには、門のような狭い島と島の間の海域をくぐり抜けるしかない当時の溜山。つまり艦隊の規模が意味を持たぬ地の利を活かして、ハディージャは奇襲をかけようというのであります。
 かくて鄭和を射馬らを向こうに回して繰り広げられる溜山軍とアラビア勢力の総攻撃。さらに彼女は、当時のイスラム科学の粋というべき秘密の対艦兵器アル・ラマーを投入。これに対して鄭和もまた、秘密兵器・火龍出水の使用を決意して……


 と、海洋ものということで一度は見たいと思っていたものの、あまりに主人公側が強大であるため、本作では難しいかと思っていた正面からの艦隊戦が描かれることとなったこの巻。
 そもそも当時の火砲の命中率が相当悪いために、艦隊戦といってもあまり盛り上がらないのでは――と思いきや、敵味方双方に秘密兵器が登場し、予想外の派手な展開となるのが非常に嬉しいところであります。

 この両兵器、機能だけ見るとほとんどオーバーテクノロジーにも見えますが、しかし歴として記録のある実在の兵器。しかしそうであってもやはり数百年前のそれを、これだけインパクトのあるビジュアルで描くことが出来るのは、これはやはり作者ならではの筆の力でしょう。
 個人的には、敵兵器に対する鄭和艦の防御手段にも痺れた次第です。

 しかし、この壮絶な戦いは、全く思いもよらぬ形で終わりを迎えることとなります。いささか唐突な印象は否めませんが、人の「最新」テクノロジーによる戦いの後に、人知も及ばぬ巨大な力の存在を描く(そしてそれによって現代と整合を取る)のもまた、実に作者らしいと感じられました。
(ただ、女王のキャラクターが単なる敵役で終わってしまったのは少々残念ではあります)


 さて、思わぬ戦いを経て、この巻の終わり近くで鄭和はついにインドは古里に到着。しかしこの時代、既に複雑な宗教情勢にあったインドにおいて、鄭和はまたもアラビア勢の襲撃を受けることになります。
 そんな中で鄭和を救ったのは意外な地から来た、意外な姿の人物(そして後の世に彼に贈られた名前こそは……!)。彼の出会いは、悩める鄭和に一つの救いを与えたようですが、それがこれからの旅路をどのように変えるか。

 おそらくはそろそろ物語も終盤に入ったのではないかと思いますが――最後まで何が飛び出してくるかわからない物語であります。


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