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2020.09.02

奈々巻かなこ『神域のシャラソウジュ 少年平家物語』第1巻 「大人の男たちの世界」の外側から見た物語

 これまで様々な形で語り直されてきた平家の興亡の物語「平家物語」。本作は少年少女たちの目をを通じて、この広く人口に膾炙した物語を別の角度から語ろうという物語であります。平家が栄華を極める中、それを陰から支える「神人」たる少年・千珠丸とは一体何者なのか……

 平安時代末期、太政大臣として位人臣を極めた平清盛をはじめとして、平家一門が栄華を極めていた時代――まだ幼い清盛の娘・徳子は、六波羅の屋敷の奥に住まう、真っ白な髪に琥珀色の目を持つ少年・千珠丸と出会います。
 保元・平治の乱の頃から清盛の近くに居りながら、その見た目は少年のまま変わらず、生死に関わるような傷を受けてもやがて治ってしまう千珠丸。彼は清盛をはじめとする一門から「神人」と呼ばれ、神と人を繋ぐ者とも、厳島大神から下された平家の守り神とも呼ばれる存在だというではありませんか。

 やがて時は流れ、平家の世を盤石なものとするために、時の帝である高倉天皇に入内するよう父から命じられた徳子。これに反発し、千珠丸と「駆け落ち」を決意した彼女ですが、しかし屋敷の中しか知らない二人にとって、外の世界は危険なことばかり。
 そして戸惑う二人の前に現れたのは、千珠丸と同じような力を持つ黒髪の少年。やはり神人を名乗る少年・遮那王の正体は……


 清盛の娘・徳子といえば、高倉天皇との間に安徳天皇を生み、国母と呼ばれながらも源平の合戦で一門は滅び、その菩提を弔って余生を終えたという、波乱万丈の生涯を送った女性であります。
 何だかいきなりネタバレしてしまったようで申し訳ありませんが、本作の主人公の一人――平家の、そしておそらくは人間の側の視点を代表するであろう彼女が、神人たる千珠丸と出会ったことからこの物語は始まることになります。

 そのある種の異形とは裏腹に、いや、むしろその外見通りに、あどけなく繊細な少年のままのメンタリティを持つ千珠丸と、年頃の少女らしいバイタリティを持つ徳子、そして同じ神人として千珠丸に反発しながら不思議な共感を抱く遮那王――本作では、この三人の視点から「平家物語」の世界が、これまで我々が知るものからはいささか異なる形で描かれることになります。

 平家と従来の貴族たちの、そして平家と後白河法皇の間の、不安定な権力バランスで支えられていたこの時代。徳子たち三人は、そんな世の中を動かす「大人の男たちの世界」の外側の存在として「平家物語」を眺めることになります。
 時に子供として、時に女性として、時に神人という伝奇的な存在として――三人の視点は、複雑な「平家物語」の世界を、生き生きとした、そしてどこか身近なものとして(現代語もしれっと飛び出す自由さもあって)感じさせるのが、本作の魅力の一つと感じます。

 しかしそれだけでなく、時が流れるにつれて、三人の立場や視点が変わっていくことを同時に描く点もまた、見事といえるでしょう。そう、徳子は千珠丸たちとは異なり、人間として成長し、先に述べたように大人の世界の一員として生きていくことになるのですから。
 その一方で千珠丸たち神人はいつまでも少年であるのも切なく――この構図の巧みさもまた、強く印象に残るのです。


 そしてもう一つ忘れてはならないのは、「神人」という存在に秘められた謎です。
 神人としての自分しか知らない千珠丸に対して、神人になる前の自分の――そして神人になる時の自分の記憶を持つ遮那王。この巻の後半で彼が語るその記憶は、神と人の間に立つ者、あるいは一門の守り神といった言葉とは裏腹の――しかしある意味それに相応しい陰惨さを感じさせるものであり、神人という存在の背後の「闇」を強く感じさせます。

 それでは千珠丸とは何者なのか? 作中の要所要所に登場する、いまだ正体不明の、彼とよく似た少女の存在も含めて、それを追いかけることが、本作の一方の軸となるのでしょう。それはおそらく平家一門が、清盛という人物が秘めた「闇」を描くことにも通じるのでしょうから……


「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。」――「平家物語」冒頭の有名な言葉であります。そしてこの言葉に繋がっていくように、この第1巻の間だけでも、徳子の身には、平家一門には様々なことが起きました。
 そしてこの先さらに大きく、激しくなっていくであろう世界の動きの中で、徳子は、少年たちは何を見ることになるのか――ぜひ「物語」の終わりまで見届けたいものです。


『神域のシャラソウジュ 少年平家物語』(奈々巻かなこ 秋田書店ボニータコミックス) Amazon

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