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2020.09.18

『啄木鳥探偵處』 第七首「紳士盗賊」

 巷を騒がす紳士盗賊がとある会社から5千円の金を盗んだ。その後盗賊は逮捕されたものの、5千円は行方不明のままで、懸賞金までかかる始末だった。そんな中、京助は啄木の持っていた二銭銅貨の中に暗号文が仕込まれているのを発見。平井太郎の助けで暗号を解いた京助だが、そこに記されていたのは……

 ある意味本作で最大の問題作である今回、その理由はひとえに内容がほとんどそのまま江戸川乱歩『二銭銅貨』であることによります。

 原案(と書いてしまいますが)未読の方、本作を未見の方のために詳細は書きませんが、原案の中心人物である下宿人の貧乏青年コンビが、本作における啄木と京助になっている以外は、事件の発端である紳士盗賊の存在も二銭銅貨の中の暗号の存在も、オチにドンデン返しが存在することもほぼそのままであります。
 もちろん異なる点はあって、本作の方で京助が見つけた暗号の謎解きを担当するのは平井太郎(言うまでもなく後の江戸川乱歩)ですし、その太郎が作中で言っているように暗号のレベルも低い。また、ドンデン返しの内容とその後の展開は本作オリジナルのものです。とはいえ、びっくりするほど今回が『二銭銅貨』をなぞっていることは間違いありません。


 まあエンドクレジットでは「参考」という表示で『二銭銅貨』が掲げられていますし、既に著作権も消滅している作品であることを考えれば問題はないのかもしれませんが――一種のオマージュということを理解しつつもすっきりしないのは、本作があくまでも原作付き作品であることに尽きます。
(しかしあまりの完成度に海外の作品の翻案ではないかと疑われたという『二銭銅貨』が、逆に翻案として使われるというのは皮肉というかなんというか)

 原作が全5話ということもあってオリジナルエピソードの多い本作。それ自体は全く問題ない(そもそも本作の場合、はっきり言ってしまえば啄木と京助が探偵をするという概要以外はほとんどオリジナルに近いわけで)ですしむしろ大歓迎なわけですが、だからといって原作で全くない他の作者の他の作品のオマージュを行うのはいかがなものかなあ、(おそらく今回の内容を知らないであろう)作者としては不本意ではないのかなあ――とと感じてしまうのです。
 ちなみに原作でも作中に平井太郎と二銭銅貨が登場するのですが、その部分はアニメの第3話で既に使っているわけで――考えてみると二銭銅貨は二度目の登板ということになります。


 そんなわけでちょっと斜に構えて観てしまった今回なのですが、しかし本作オリジナルの結末部分――この二銭銅貨の真実を知った京助が、前々回からわだかまりを残して絶交中であった啄木と和解するという展開自体は、京助への甘えからか、彼に対しては無遠慮な啄木が、まだ減らず口を交えながらも真情を吐露するところなど、実に良かったとは思います。
 また、これだけのために色々仕組んだ軍資金が、実は啄木が先に懸賞金を手に入れていたのでは――と匂わすのも洒落ているのですが、色々考えるとちょっと無理があって、これは啄木が(仲違いの原因となった金を使って)自腹を切っているのでは、と想像させるのもまたグッとくるところであります(原作から盗まれた金額と懸賞金が一桁減となっているのもこの辺りを考慮したのでは、という気もいたします)。

 そしてさらに、そうまでして和解した次の瞬間に、別れを予感させる啄木の体の異変が描かれる点も……


 もう一点、第1話から描かれてきた、殺人事件とそれによって大企業の不祥事が明るみに出るという流れが続いていることが今回も描かれ、そこにいわば「告発者X」が匂わされるのもまた、後半戦に向けての仕掛けとして大いに気になるところであります。


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