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2020.09.25

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編』第3巻 日蒙激突! そして合流する二つの物語

 最近思わぬ形で注目を集めることとなった『アンゴルモア 元寇合戦記』ですが、戦いの舞台は既にツシマから博多に移っています。緒戦では足並みが揃わず苦戦した日本側ですがついに立ち上がり、この『博多編』第3巻では蒙古軍との全面衝突がいよいよ開始。一方、朽井迅三郎もついに戦場に……

 少弐景資の下に集まりながらも、全く士気が上がらず、指揮系統も確立されていないことから眼の前に橋頭堡を築かれてしまった日本武士団。そんな中で失うもののない菊池武房が、そして竹崎季長が奮戦を繰り広げたことからようやく武士たちに火が着き、本格的な合戦が始まることとなります。
 一方、大胆にも高麗軍の軍船に密航して対馬を離れた迅三郎は、発見されて大立ち回りを繰り広げた末、天草の御家人衆の軍船襲撃の混乱に紛れて脱出、天草の舟に拾われるのでした。

 天草衆を率いていたのは、天草の地頭・大蔵氏の惣領娘・大蔵太子。博多に向かう彼女は迅三郎を乗せていくことを肯うのですが、しかしあくまでも迅三郎を島抜けした流人として扱い……


 と、この巻の表紙を飾るのは、前巻の終盤に突如登場した大蔵太子。赤毛に肌も露わな胴鎧姿の野性的な美女、しかも蒙古船襲撃の際には一番銛を放ち、敵船に飛び込むのも一番乗りという、ほとんど別世界の住人レベルでキャラの立った新顔であります。
 しかしそんな彼女にとって気がかりは壱岐にいた弟・種資の存在。彼を博多に伴うべく、太子は壱岐に寄ったものの、そこは既に蒙古に占領され、そして種資も……

 流人の身でありながら、対馬の人々と共に戦い、彼らのために奮戦を繰り広げてきた迅三郎。ここで描かれる種資も、あくまでも天草の人間であり、壱岐の人間ではないにもかかわらず、この地を守って死闘を繰り広げたという点で重なるものがあります。

 しかし何故彼は、家の為でもなく自分の土地でもない――すなわち「一所」ではないもののために、命懸けで戦うことができたのか? それを問う太子への迅三郎の答えは、あるいは格好良すぎるかもしれませんが――しかし歴戦の強者である彼の、何よりも対馬での地獄を戦い抜いた彼の姿を知る者からすれば、大いに腑に落ちるものといえるでしょう。
 そしてその言葉は、確実に太子の心をも動かすことになるのです。


 さて、その一方、博多では日本軍と蒙古軍の戦いが激化。前巻で描かれた戦いはあくまでも先着順(!)の小競り合いに過ぎないというレベルで、鳥飼の干潟を舞台に、いよいよ全面衝突が始まることになります。

 いざ戦いとなれば、手柄を立てた者勝ちというわけで、名乗りを上げて突き進む鎌倉武士たち。弓と鉾を多用する蒙古軍の戦法にもたじろがず、手柄のために突き進むのですが――そこで炸裂するのが、教科書でもお馴染みのてっぽうであります。
 今の目から見れば原始的な榴弾というか手投げ弾のてっぽうですが、その直接的な殺傷力のみならず、その音とビジュアルのインパクトは、間接的にも多大な効果を上げ――というのもまたお馴染みの話ではありますが、大乱戦の中でそれが描かれれば、大きな説得力があります。

 とはいえてっぽうも乱戦の中では使用不可能な兵器、そしてその乱戦においては鎌倉武士一人ひとりの武勇は、決して蒙古軍に劣るものではありません。しかし、あくまでも戦いは数だよ、なのです。
 いま博多に上陸しているのは蒙古軍の先鋒である高麗軍であって、本隊の上陸はまだこれから。一方、筥崎に陣を構える日本側は、例によって自分たちの利と面子第一でにらみ合うばかり――と、戦力の差は歴然であります。

 鳥飼干潟での合戦でのダメージも決して軽くない中、果たしてこの先日本軍は戦い抜くことができるのか――というところで、ようやく二方面で描かれてきた物語が合流することになります。
 この巻のラストで描かれるのは、痛快とすらいえる人を食った姿でついに日本軍の前に立つ迅三郎の勇姿――そう、戦いは、物語はまだまだここから、なのであります。


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