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2020.09.22

野田サトル『ゴールデンカムイ』第23巻 谷垣とインカラマッ 二人のドラマの果てに

 アニメ第三期も開始目前に迫った『ゴールデンカムイ』、原作の方は北海道に戻り、黄金と刺青人皮を巡る三つ巴の争いも再開されることになります。黄金を目指しそれぞれの活動を続ける三派ですが、この巻では殺伐とした争いの一つが、意外な結末を迎えることに……

 樺太から帰還し、鶴見一派に絶縁状を叩きつけた杉元・アシリパ・白石の面々。しかし刺青人皮の謎を解くためにはアシリパの存在が不可能と知った鶴見が彼女を諦めるはずはなく、そして樺太から帰還して合流した尾形からアシリパのことを聞いた土方たちも動きだすことになります。

 そんな中、杉元たちは、圧倒的に不利な状況ながら、両派を食い合わせて最後の勝利を掴むべく動き出し――と、ある意味、争奪戦初期の段階に戻ったような状態となったわけですが、しかし残る刺青人皮はわずか4枚。
 当然ながら刺青人皮を巡る争いはいよいよ激化することが予想されるわけですが――この巻はその序奏というべきものが描かれることになります。

 札幌の貧民窟で次々と娼婦を惨殺する謎の殺人鬼(ここで久々に登場し、ヒューマンダストっぷりを遺憾なく発揮する石川啄木)。そして前巻で倒した砂金獲り名人・松田の遺した砂金から存在が明らかになった強敵・海賊房太郎。ここでこの先の物語に大きく影響する二人の登場が描かれたわけですが、彼らとの激突はまだまだ先――この巻ではそこに至るまでの各派の動き等が描かれることになります。


 しかしそこで描かれるものが、鶴見を異常なまでに敬愛する宇佐美上等兵の悍ましい過去であったり、意外と可愛いもの好きの杉元とシマエナガの物語であったり――と、読んだ後に「……」という感じになってしまうエピソードが続くのが何ともツラい……
 と思っていたところに、ラストに大きな感動が待ち受けていました。

 鶴見の部下として杉元たちと共に樺太に同行し、帰還しながらも、黄金争奪戦からの決別を宣言した谷垣。しかし鶴見がそれを許すはずもなく、なおも彼を縛ろうとするのであります。何を以て? 彼の子を宿していたインカラマッの身柄を以て。
 これに抗する術はなく一度は鶴見の杉元抹殺の命を受けた谷垣ですが、しかし好漢の谷垣がそれを成せるはずもありません。彼は残された手掛かりを追ってインカラマッのもとに向かうことになります。

 果たしてインカラマッの入院する病院を守る鯉登と月島の目をかいくぐることができるのか、インカラマッと出会えたとしても、臨月の彼女とどこに逃げるのか。八方塞がりの状態となった二人の物語は、思わぬ形で一つの結末を迎えることになります。
 その詳細を書くことができないのが何とも歯がゆいのですが――ここで展開する谷垣とインカラマッのドラマだけでなく、同時に他の人々のドラマでもあるということはできます。

 偏執的な殺人鬼であったり、冷徹な軍人であったり――そんな極端なキャラクターが描かれてきた者たちがふと見せる、人間的な素顔の数々。
 特にここで描かれる、これまでメディリリーフ的な存在であったある人物の姿は、彼の大いなる成長を描いたものであって――ほとんど不意打ち気味に描かれたそれには、大いに涙腺を刺激された次第です。(それを受けたある人物の言葉もまた……)

 そしてその先に待ち受けるもの――それはこの暴力と死に満ちた物語における、大いなる救いと言うべきでしょう。


 これまで繰り返し触れてきたことではありますが、本作は時に変態的なほど濃すぎるキャラクターたちによるアクションとギャグを描きながらも、それに終わらず、丹念に丹念に、そのキャラクターたちの心情を――突き詰めれば人間としての姿を描いてきたと言えます。
 今回描かれたものは、その一つの到達点であると言っても、決して大袈裟ではないのではないか――そう心から感じるのであります。


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