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2020.09.16

「コミック乱ツインズ」2020年10月号(その一)

 早いもので号数の上ではもう10月号の「コミック乱ツインズ」誌、今月号の表紙は単行本第8巻が刊行されたばかりの『勘定吟味役異聞』、巻頭カラーは同じく第16巻が刊行された『鬼役』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきたいと思います。

『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 こちらもまた単行本新発売となりますが、数ヶ月ぶりの掲載となった本作は、なかなかの異色エピソードであります。

 自宅の道場に通う弟子の一人である九歳の少年・正造が、絵を習ったこともないのにあたかも生きているかのような絵を描くのを目の当たりにした源太夫。しかし正造の父が絵を描くことを絶対に許さないと知った源太夫は、正造の才を惜しみ、自らその父の元に出向くのでした。
 が、正造の父は、正造の絵を見た途端に豹変、源太夫もたじろぐほどの凄まじい剣幕で彼を追い出して……

 これまで、立ち合いはもちろんのこと、剣が絡むことであれば、向かうところ敵なしだった軍鶏侍・岩倉源太夫。しかしそんな彼も、人間心理の綾まではお手上げだった――というのが今回のお話。「こじらせるつもりはない」と自分の妻に格好良く言って出かけて見事にこじらせてしまったりと、これまでとは全く勝手の違う世界の出来事に手を焼くことになります。
 結局最後まで刀を抜く場面はなかった今回、事態を解決したのは――という展開はなかなかいいのですが、何となくスッキリしないものが残るのは、失敗しても余裕の感じられる源太夫の佇まいによるものでしょうか(というのはこれはもちろん単なる僻みですが)


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 尾張前藩主・徳川吉通毒殺犯を追って京に向かう聡四郎一行の旅は続き、今回の舞台となるのは熱田からの海路。熱田から桑名に旅程をショートカットするつもりで船に乗ったものの、そこに待ち受けていたのは刺客の群れで――と、逃げ場のない狭い船上で、聡四郎・玄馬・袖吉の三人は、尾張藩からの刺客団と対決することとなります。
 なるほど熱田といえば尾張、そして聡四郎はまさに尾張藩の内訌がきっかけで旅をしているわけでまさに敵地――ただで済むはずもありません。もっとも尾張藩側はそこまで知っていたわけではなく、尾張藩の不始末を知っている聡四郎に領内を通られて、痛くもない腹を探られるのを嫌ったわけですが……

 しかし、落ち着いて姿勢を正していればいいものを、軽挙妄動に走って主人公を(さらには権力者を)怒らせる――というのは、上田作品の小人の定番。まずは刺客たちはその代償をその命で支払うことになります。
 迫力ある殺陣が次々と描かれる本作でも、ある意味珍しいくらい凄惨な剣戟で圧倒的な強さを見せる聡四郎ですが――しかし刺客を蹴散らしても、まだ不穏な空気は晴れないようであります。
(にしても、本作における権力の犬の皆さんの死んだ魚のような目は大いに印象に残るところで――こちらも気をつけたいものです)


『いちげき』(松本次郎&永井義男)
 完結まで、今回を入れて残り3話となった本作。まだ3話もあるか、もう3話しかないというべきか――いずれにせよ描かれるべきは、丑五郎と伊牟田の決着しかありません。もはや全てを失った二人には、戦う理由すら失われたようにすら思えるものの、それでも二人は互いのケジメのため、決着に向けて歩を進める――と思いきや、い、伊牟田!?

 というあまりに衝撃的な展開(というか絵面)が序盤に用意されている今回。しかし丑五郎にとっては、この女郎屋に乗り込んだもう一つの理由としてソノの存在があります。なりゆきとはいえ、ソノの証文を手に入れた丑五郎ですが、先に描かれた彼女の真意を思えば、それも明るい材料には――と思いきや、なるほど、これはこちらが牛五郎を見誤っていたと思わされる展開が待ち受けます。そしてもう一人――伊牟田のこともまた。
 ソノの真意が描かれる直前、ものわかりの良いおじさんフェイスが描かれた伊牟田。今回描かれるのは、その後、ソノに対しての伊牟田の行動なのですが――そのあまりに衝撃的な姿、いや彼にそこまでさせる想いの存在には、言葉を失います。

 「人を斬るときはやっぱり顔を見るモンじゃねえんだな…」という丑五郎の言葉の重みが、痛いほど感じられるこの展開。ラスト2話で何が描かれることになるか、何が描かれても驚かないつもりではありますが――さて。


 長くなりましたので次回に続きます。


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