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2020.09.06

松田朱夏『鬼滅の刃 ノベライズ きょうだいの絆と鬼殺隊編』 心情の隙間を補うノベライズ

 いよいよ劇場版「無限列車編」の上映も迫り、書店には単行本が、そして巷にはグッズが溢れて――と、変わらぬ人気の『鬼滅の刃』、児童向けノベライゼーションの第2弾であります。今回はまさにその無限列車の直前までが収録されており、TVアニメ版と同じ部分までの小説化となっています。

 第1弾が原作単行本の第1巻から第4巻の前半――鼓屋敷のラストまでの収録であったのに対して、そこから第7巻の冒頭まで、アニメの第15話から第26話までが収録されている本作。内容でいえば那田蜘蛛山での戦い全編と、九人の柱の登場――柱合裁判、機能回復訓練までが描かれることとなります。

 これはもう原作(というアニメの)構成の時点でそうなので仕方ないのですが、鬼との戦いは前半に集中、後半は鬼殺隊内部のドラマとギャグシーン多めの訓練というくっきり色分けされた構成なのはバランス的にどうなのかな、という気はいたします。
 しかし原作同様、アクションシーンでは手に汗を握る展開が続き、ギャグシーンでは脱力&笑いという緩急はきっちりつけられているため、違和感はありません。

 もっとも、前作同様、台詞は原作のものをほとんどそのまま使用、挿絵も原作の頁をそのまま使っているので、違和感が出るはずはない、というのはそれは当たり前かも知れません。
 しかし本作の見事な点は、ノベライゼーションでは当然といえるかもしれませんが、文章のみで原作の空気をきっちりと再現している――いやむしろ心情描写の点では、原作のそれをさらに補って見せている点と感じます。

 その点が本書において最も顕著に現れているのは、蝶屋敷で訓練中のある晩、炭治郎と彼の前に現れたしのぶとの会話の場面であります。
 この場面は、その美貌には常に笑顔を絶やさぬまま、鬼に対しては冷酷非情となるしのぶの内面が、初めて描かれる重要な場面ですが――そのきっかけとなるのは、しのぶが常に怒っていることを、炭治郎がにおいから指摘したことでした。

 原作では、ここでのしのぶの告白のさなかの感情の揺れを、彼女の微妙な表情の変化を描く(あるいは見せない)ことで表しますが――本作においては、しのぶの言葉の合間に、彼女から炭治郎が怒り以外の様々なにおいを感じ取ることによって、浮き彫りにしてみせるのであります。
 もちろん文章によっても、言葉を費やせば原作の再現は可能でしょう。しかし児童向けというある程度の制限がある中で、それを描くのに炭治郎の鼻という設定を用いることにより、このような形で心情描写を補ってみせたのには、大いに感心させられた次第です。

 このように本作では、随所で心情描写を様々な形で補っており――もちろんその内容は原作通りではあるのですが――大袈裟にいえば原作の再構成ともいえる、これらの丹念な描写には好感が持てます。
 もっとも、その本作を持ってしても、義勇さんが何を考えているかまではよくわからないのですが……(もちろん、これも原作通りではあります)


 というわけで前作同様、いや前作よりも楽しめたこのノベライゼーションですが、第3弾は無限列車編として、映画公開と同時に発売されることになります。

 しかも今度は同じ作者によるこの集英社みらい文庫版と、これまで『鬼滅の刃』のスピンオフ小説を発表してきた矢島綾によるJUMP j BOOKS版の二点が発売されるとのこと。はたしてこの二冊がそれぞれ原作とアニメをどのように取り入れ、そして再構成してみせるのか――今から読み比べるのが楽しみなのであります。


『鬼滅の刃 ノベライズ きょうだいの絆と鬼殺隊編』(松田朱夏&吾峠呼世晴 集英社みらい文庫) Amazon

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