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2020.09.08

賀来ゆうじ『地獄楽』第11巻 呉越同舟 それぞれの戦い、それぞれの想い

 地獄と極楽の間での死闘はなおも混迷を深め、いまだ光は見えない『地獄楽』。この最新巻では、これまでの全ての戦いを無意味とさせかねない恐るべき敵に対して、思わぬ形で一致団結した者たちの戦いが始まることになります。そして肉体に変調をきたす中、恐るべき敵と対峙した画眉丸の運命は……

 天仙たちとの死闘の傷も癒えぬまま、追加上陸組の四人の浅ェ門、そして石隠れ衆の群れと対峙することとなった先発上陸組の死罪人と浅ェ門たち。さらに生き残りの天仙率いる島の者たちも加えて三つ巴の戦いが始まり、山田浅ェ門殊現の刃に倒れた厳鉄斎を救うべく、付知が命を散らすこととなります。
 そんな中、士遠に瀕死の深手を負わされた天仙・朱槿が神獣・盤古と一体化、周囲を花に変えながら、その巨体を現すのでした。

 既に体の一部が植物化している画眉丸や弔兵衛に影響を与えるのみならず、体から放出する丹により、島の全ての者を花に変える力を持つ盤古=朱槿。もはやどうあがいても、絶望しかない状況と思われた時――思わぬ動きを見せたのは浅ェ門十禾であります。
 これまで全くやる気というものを見せず、口を開けば酒と色のことばかりであった十禾。しかし彼はまた、これまで誰も戻れなかった島から唯一生還した――それも海を守る巨大な怪物を斬った上で――という、得体の知れぬ人物でもあります。

 そしてそんな彼に呑まれたように、手を組むこととなった先発上陸組の死罪人と浅ェ門、追加上陸組の浅ェ門(除く殊現)。盤古が持つ火水木金土の五つの丹田を同時に破壊するため、彼らは呉越同舟、五組のチームを組んで城内各地に散ることになります。
 かくて威鈴&清丸、弔兵衛&桐馬、士遠&ヌルガイ、画眉丸&佐切、十禾&厳鉄斎という組み合わせで丹田に向かう面々ですが――その前に立ちふさがるのは、盤古が生み出す怪物たちの群れ。しかも丹田を守るのは、複製されたかつての天仙たち……!


 と、一時はどうなることかと思いましたが、ひとまずは浅ェ門同士の戦いは回避され、盤古を相手に、クライマックスに相応しいオールスターでの戦いが始まることになりました。
 正直なところ、劇中で佐切が言うように、ここまで来たのにまた振り出しに戻ったような印象は否めないのですが――しかしこの戦いの中で、それぞれの秘めた想い、そして何よりも、先発上陸組それぞれの成長が描かれるのには、何とも胸が熱くなります。

 しかしその一方で不気味なのは、この巻でついにその実力と真意の一端を見せた十禾であることは間違いありません。
 上に述べたとおり、これまで腑抜けたいい加減な顔がほとんどであった十禾ですが、この修羅場で示したのは、殊現や士遠らの氣ともまた異なるようにも見える恐るべき力。そしてさらに恐るべきは、様々な悪人を見てきたであろう弔兵衛をして「人の心を持たない奴」と言わしめるその精神であります。

 果たして十禾の真意は、この巻で描かれたもののみなのか――あるいは彼の存在が、この先の物語を左右するのかも知れません。


 しかし、それもこの盤古との戦いを征してから。その最大の不安定要因として登場するのがシジャ――次代の画眉丸にして、当代の画眉丸に異常な執着心を持つ怪忍者であります。そして本書の後半を費やして描かれるのは、丹田に向かう画眉丸と佐切の前に立ちふさがるこのシジャとの戦いです。
 およそ常人とは程遠い精神を持つ石隠れ衆の中でも、さらに異常というべき精神を持つシジャ。その行動原理は、簡単に言ってしまえばヤンデレの一言であります。

 自分の理想とする画眉丸を取り戻し、そしてその画眉丸と殺し合う――彼の行動目的の全てはそれであり、そのためであれば幕府の下命も石隠れの使命も知るものかは、というシジャを前にしては、さすがの佐切も困惑するしかありません。
 しかも肝心の画眉丸は、先に述べたとおり盤古の影響で体内の氣が暴走し、到底ベストコンディションには程遠い状態。そんな中で、全ての手の内を知り尽くした相手とどのように戦うのか?

 シジャの異常な執着の前に苦戦を強いられる佐切、そして画眉丸。しかしその中で画眉丸復活の鍵となったのは、画眉丸の中の想いであります。人間としての全ての感情を失った石隠れ衆にはあり得ない、この想いの存在こそは、画眉丸の画眉丸たる所以であり、そしてまた彼の成長の証。その姿は、ある意味痛快ですらありました。
(その時の佐切のリアクションも、また実に「人間的」で印象的です)


 はたしてシジャを倒し、そして盤古を倒すことはできるのか――ほんのわずかの希望の光を掴むための戦いは続きます。


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