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2020.09.20

叶輝『残月、影横たはる辺』第1巻 公儀助太刀人、明治の世に仇討ちを助ける

 明治の世になり、禁止令が出された仇討ち。しかし東京警視庁内には高額な報酬と引き換えに仇討ちを請け負う「公儀助太刀人」がいた。その一人、鬼塚千明のもとに、母親を無惨に殺された少女から仇討ちの依頼が舞い込むが……

 時代劇の大きな要素として存在し、そして江戸から明治へと時代が移り変わる中で失われたものの一つとして、仇討ちという行為が挙げられるのではないでしょうか。普遍的な現実であったかは別として、復讐のため、武士の面目のため、あるいは刑事制度の補完のため存在する仇討は、フィクションの世界において様々なドラマを生み出してきました。
 そんな仇討も明治6年には公的に禁止されるに至ったわけですが――その後も警視庁に密かに仇討ちを代行する者が存在していたという、ある意味奇想天外な設定の物語が本作であります。

 明治12年、新橋の高級妓楼で浮名を流す、官服に帯刀の伊達男・鬼塚千明。その彼に持ち込まれたのは、年端もいかぬ少女・小春からの仇討の依頼でありました。
 浅草で生人形を作っていた人形師の母が何者かに殺され、大通りで見世物人形のように晒されるという悲劇を経験した小春。彼女は千明に――一等巡査にして「公儀助太刀人」である千明に、仇討ちの助太刀を依頼してきたのであります。

 ある理由から小春の母の死に様に心を動かされながらも、殊更に冷たく当たり、一度は依頼を断る千明。しかし警察として独自に動き、下手人を捕らえた千明は、小春の前に現れ……


 このあらすじを見た限りでは、本作は仇討ちというより、いわゆる仕事人もの的な要素が強いようにも思えるかもしれません。
 しかし金をもらって復讐を行う――すなわち依頼人は金を払うだけ――のとは異なり、本作で千明が行うのは、少なくとも表向きは助太刀であり手を下すのは依頼人本人、というのが「公儀助太刀人」の名のゆえんなのでしょう。

 この第1巻のメインとなる小春のエピソードはまさにその点を中心に据えたものといえるでしょう。ここで中心になるのは復讐の是非――というよりも、人が自らの手で人を殺めることの重みなのですから。
 母の仇討ちを依頼した際に千明から人殺しの覚悟を問われ、「下手人が自分で招いた結果でしょ」と、ある意味えらく「現代的な」態度で応える小春。しかし実際に千明が下手人を追い詰め、後は止めを刺すだけとなった時、彼女の選択は……

 という展開はまず定番という印象ですが、しかしそれは、仇討ちが法で禁じられた時代に、それでもあえて仇討ちをしようとする者がいるという物語だからこそ、より映えるものなのかもしれません。


 この第1巻の時点では「公儀助太刀人」なる奇妙な役目が、東京警視庁内に半ば公然と存在する――しかもその後楯はかの川路大警視!――理由が明確となっていないため、(主に時代ものとして)どのように評価すればよいか、まだ悩ましいというのが正直なところではあります。

 しかし物語の中で断片的に描かれていく千明の過去――会津生まれでかつては日新館に通う少年武士であり(飯盛山には行っていないようですが)、そして戦後に養父から剣を学び、そしてその養父を惨殺されたという過去――が、この公儀助太刀人という存在とどのように結びついていくのか、これは大いに気になるところです。
(おそらくはその時の名残であろう、千明の義眼の由来もまた)

 そしてさらに、今なお根深く残るらしいその事件の背後に潜むもの、大きく世間を動かしかねないその存在が何なのか――この先の展開が気になる作品であることは間違いありません。


 しかし妓楼通いを続ける息子が家に帰ってくるたびに、医師を呼んでおいて花柳病の診察を受けさせる義母というのは、どうなのかなあ……(それに対する千明の明治ならではの弁明もなかなか面白いのですが)


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