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2020.09.19

夢枕獏『大江戸火龍改』 久々登場、夢枕獏流時代伝奇活劇

 夢枕獏による新たなる時代伝奇小説――万妖異事相談(よろずあやかしごとそうだん)を謳い、江戸に起きる怪奇の事件に挑む、博覧強記にして白髪の異人・遊斎を主人公とした連作シリーズであります。

 人形町の鯰長屋に一人居を構える男・遊斎――年の頃は30代後半程度に見えるものの、髪は全て白く、瞳は赤いという異貌の男。
 その住まいには見たこともないような奇怪な品々がところ狭しと積み重ねられ、彼を慕う近所の子供たちが遊びに来たと思えば、かの平賀源内が話し込んでいくというような、何とも得体の知れない人物であります。

 そんな遊斎の生業(?)が、万妖異事相談――すなわち、この世のものとも思えぬ怪事に悩む人の相談に乗り、これを鎮めるという、世間広しといえども、彼以外にはできそうにない稼業であります。
 さらにこの遊斎、幕府の陰のお役目である火龍改――正式には化物龍類改、すなわち人間に害をなす人外のもの狩り、祓い鎮める役所に遊斎は助力しているという噂。

 かくて、今日も様々な者たちが持ち込んでくる怪事件に、遊斎は飄々と挑むことに……


 と、何とも魅力的な基本設定で展開する本作は、三つの短編と一つの長編で構成されています。

 怪事に対する遊斎の日常(?)を描く「遊斎の語」
 ある日突然、意識を失っては主人たちの秘密を語るようになった商家の小僧の謎を解く「手鬼眼童」
 釣り指南書を著した武士のもとに夜な夜な現れる、首のない男の幽霊の正体に挑む「首無し幽霊」
 これら「小説現代」誌に掲載された(うち「首無し幽霊」は以前にあるアンソロジーも収録)短編は、いずれも作者自身が本作を評するに「江戸版陰陽師」と述べたのに相応しく、軽妙な味わいの物語。派手さはありませんが、遊斎が手慣れた様で様々な怪異に対するのが何とも楽しいエピソードであります。

 一方、「web小説現代」に連載された長編の「桜怪談」は、満開の桜の下で茶会を催していた大店の女将が、何者かによって桜の中に引き上げられ、生きながら食い殺されるという、衆人環視の下での奇怪極まりない惨劇から始まる伝奇活劇の要素も大きい物語です。
 遊斎の手足として働く飴売りの土平、退屈を持て余した剣の達人・如月右近、火龍改与力の間宮林太郎、そしてあの平賀源内(本作と似た題名の『大江戸恐龍伝』の主人公ですが、あちらとは特に関係のない様子)といった遊斎を取り巻く仲間たちが登場、彼らの力を借りて、遊斎は相次ぐ奇怪な人死に挑んでいくことになります。

 このエピソードに登場するのは、実は夢枕作品ではお馴染みという印象もある怪異なのですが、それを指す業界用語(?)の「らしさ」といい、遊斎や土平の操る奇妙な術といい、そして事件の陰に見え隠れする怪老人・播磨法師の存在といい――いかにも作者らしい要素が横溢で、久々に夢枕獏流の伝奇活劇を楽しませていただきました。
 もっとも、事件のスケール自体は意外とこじんまりとしていたり、そもそもタイトルの『大江戸火龍改』はそれほど出てこなかったような――という印象もありはするのですが……


 何はともあれ、謎めいて魅力的なキャラクターが、江戸を騒がす怪奇の事件に挑むという、私にとっては好物の要素しかない本作。是非とも続編を――できればさらにスケールアップした長編を――期待したいところであります。

(しかし播磨法師、ビジュアルといい言動といい「播磨」といい、作中で図らずも評されるように「千年生き」てきたあの人物にしか見えないのがニヤリとさせられるところであります)


『大江戸火龍改』(夢枕獏 講談社) Amazon

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