安達智『あおのたつき』第4巻 意外な新展開!? 登場、廓番衆!
冥土の吉原は鎮守の守で、迷える魂を導く「あお」の奮闘を描く時代ファンタジーも4巻目。この巻では、前の巻から続くおぞましくも哀しい女郎蜘蛛編から、一転思いもよらぬ展開に繋がっていくこととなります。
浮世と冥土の間の鎮守の守で、宮司の楽丸に雇われた「あお」こと花魁・濃紫。何故か少女の姿で現れた彼女は、小さいなりながら、迷える遊女たちの魂を救うために奮戦することになります。
そんな中、社に依頼に来た浮世の吉原の遣手婆・おかね。彼女は禁断の恋に落ちた遊女・八葉と若い衆の兵次を引き離すため、八葉に化けて兵次を振ろうというのであります。
しかしその実、兵次への恋に身を焦がしていたおかね。その高まる想いは彼女の生霊を蜘蛛の姿に変えて兵次を絡め取り、制止しようとする楽丸の神具である鍵までもへし折ってしまい……
という展開から続くこの巻。顔だけ八葉の女郎蜘蛛から、さらに悍ましい本当の怪物蜘蛛(ここだけ浮世絵調になるのが異界感があっていい)に変化し、暴走するおかねを止めるべく、あおと楽丸は言葉を重ねることになります。
特に吉原の表も裏も知り尽くしたあおは、おかねを必死に止めようとするのですが――しかし完全に妄執に捕われたおかねに、神具を失った二人が敵うはずもありません。
そんな絶体絶命の状態に現れたのは、かつてあおを悪霊として祓おうとして楽丸と対立した冷徹な宮司・恐丸。強大な力を持つ「狐の窓」でおかねを祓おうとする恐丸を、あおと楽丸は必死に止めようとするのですが……
と、詳しくは書きませんが、このエピソードは、正直なところ、もっと別な結末はなかったのか、という気持ちが強い結末を迎えることになります。
これ以外はなかった、というのも理解できますし、これはこれで大きな意味を持つ展開なのだと思いますが――しかし、やはり索漠たる印象が残ったのは否めません。
さて、この女郎蜘蛛のエピソードは、しかし思わぬ形でこの先の物語に影響を与えることになります。
先に述べたように、おかねに神具の鍵を折られ、霊験を喪った楽丸。新たな鍵は思わぬ形で手に入ったものの、しかしそれに神具としての力を与えるには、廓の五体神の承認が必要だというではありませんか。
楽丸の仕える神たる薄神(いつもかわいい)は、もちろん彼を承認するのですが――しかし残る神々は? というところに登場したのが、四人の廓番衆。彼らと楽丸こそが、冥土の吉原を守る宮司たちなのであります。
なるほど、浮世の――史実の新吉原には、廓を守る五つの稲荷社がありました。そのことから、以前恐丸が登場した際に、あと三人の存在を予想していたのですが、ここで登場するとは。
恐丸以外の三人は初登場ですが、いずれもインパクトのあるビジュアルの、見るからに只者ではない面々。そしてその三人+恐丸が何故現れたかといえば――それは楽丸に対して、神々の承認を得るために、自分たちの社を訪れるように告げるためだったのです。
そんなわけで自分の社以外の四つの社を訪れ、それぞれの神の承認を得ることとなった楽丸。しかし同時にそれは、あおが冥土の吉原に混乱をもたらす存在として祓おうとする宮司たちに、彼女のことを認めさせるため意味も持つことになるのでした。
かくてここからはあおと楽丸の四大社巡りと宮司との対決という、あたかもバトル漫画のような展開になるわけですが――もちろん本作においてそのような直球バトルが描かれるはずはありません。
この巻に収められた最初の社――朧神白狐社の宮司・怒丸は、童のような外見ながら、霊験による幻を自在に操る存在。そして彼が楽丸に化したのは、社の五体の朧神(やっぱりかわいい)に関するある修験であり――その一方であおに対しては、直々にある手段で彼女の人となりを試そうというのであります。
そしてその中で浮かび上がるのは、楽丸とあお、それぞれの想いであり――そこには、やはり本作らしい、本作ならではの人の情の姿が、浮かび上がっているといえるでしょう。
そしてらしさといえば、怒丸との対決であおが見せる「らしさ」も痛快なのですが――次に待つのはいきなり廓番衆の束ね役である大宮司・喜丸。はたしてどのような試練が、どのようなドラマが待ち受けるか、期待です。
と、本書の巻末には、以前登場したきよ花と富岡のその後を描く短編を収録。これがまた本作らしく、切なくも一片の救いを感じさせる物語で、必見であります。
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