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2020.10.16

皆川亮二『海王ダンテ』第11巻 内なる敵との対峙 そして「人間」の条件

 エジプトの地底から一転、舞台は天空に浮かぶアトランティスへ――『海王ダンテ』もいよいよ佳境、この巻で描かれるのはアトランティス編の後編であります。自らのルーツを求めてアトランティスを訪れたダンテは、非人々のあまりに激しい敵意に何を思い、如何に行動するのか……

 エジプトでの戦いの中で、自分がドゥランテなる種族の末裔であることを知ったダンテ。その真実を知るべく、仲間たちそしてナポリオとともにアトランティスへの門があるというシナイ山に向かったダンテは、そこで空間に開いた門から天空に浮かぶ超科学島・アトランティスを訪れることになります。
 しかしそこで一行はアトランティスの防衛機構に捕らえられ、さらにダンテはなんと核処理施設であわや「焼却処分」に処されかける羽目に……

 遙か三千年前、アトランティスを襲ったというドゥランテ・モーセ。超人的な肉体と能力を持つモーセにより、あわや滅亡の危機に瀕したアトランティスは、それ以来ドゥランテの再来に備えて来たのであります。
 それでも自分は「人間」だと訴えるダンテに対し、アトランティスの皇女・メイラは、それを証明するため、アトランティスの民を傷つけたり破壊活動を行うことなく、中央ドームにたどり着くよう促すのですが……


 というわけで、エジプト編の最中にフラッシュバック的にその姿を現したと思えば、にわかに渦中の人となったモーセ。もちろん旧約聖書の、あの海を割ったモーセその人ですが――本作における彼は、ノアの子孫を名乗り、世界の均衡を保つために進みすぎた文明の担い手であるアトランティスを潰すと宣言する、いわば文明の破壊者として登場することになります。
 そして危機に陥ったダンテの精神の中に現れ、彼の肉体が、自らの復活のための器であったという、とんでもない真実を告げるモーセ。なるほど、常人では体が破裂するほどのパワーを放つ魔導器を、既に副作用なく操れるようになったダンテは、確かに常人ではないのかもしれません。

 しかし、主人公が己の中に潜む内なる敵と対峙するというのは、皆川作品のいわば定番。そしてそれを理解し、支える周囲の皆さんもまた……
 というわけで、自分の肉体が既に人間のそれではなくとも、自分の魂の中に悪魔のような別人がいたとしても、それでも自分が「人間」であることを証明するべく奮闘するダンテの姿は、アトランティスの人々を、そして我々読者を大きく惹きつけるのであります。

 「文明人」「人間」――このアトランティス編において幾度も繰り返されるこの言葉。いや、考えてみればこれらの言葉は、これまでこの『海王ダンテ』という物語の随所で語られていたようにも思われます。
 魔導器といい、「書」といい、ドゥランテといい――強大すぎる力を持とうとも、彼が「人間」であることを決めるのはその心。そしてその心ある者こそが「人間」であり「文明人」である――そんなことを、ダンテと仲間たちの姿は、教えてくれるのであります。

 だからこそ、このアトランティス編の幕切れには、これまでのエピソードの中でも屈指の爽快さが感じられるのでしょう。


 ダンテだけでなく、相変わらずのアルビダさんの無双っぷりあり、本作においては正真正銘の人間であるパトリックの活躍ありと、仲間たちも要所要所で活躍し、短いながらも充実した内容であったアトランティス編。

 しかし物語は、ついに次巻から最終章に突入することになります。果たしてダンテの中のモーセの動きは、そしてある意味この物語の扉を開けた人物である、コロンバスの真意とは――いまだ幾つもの謎が残された本作、まだまだ楽しませてくれることは間違いありません。


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