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2020.10.23

『啄木鳥探偵處』 第十二首「蒼空」

 探偵處設立のきっかけとなった星野達吉殺しに始まる殺人事件と告発状を巡る事件の連続。その陰に潜む告発者Xを追う啄木は、教会から出てきた成瀬という男に目を付け、一計を案じて誘き寄せる。そして翌朝、ただ一人、告発者Xと対峙する啄木。果たしてその正体とは、そして啄木の選択は……

 第1話で描かれた星野達吉殺しのように、殺人事件の被害者が巨悪を告発する告発状を残しており、それによって悪事の存在が明るみに出るという事件――冒頭で啄木が語るところによれば、これまで実に13件もの同様のケースがあったこれらは、単純な殺人事件ではなく、殺人を装った自殺、あるいは実質的な自殺(結果的に殺人に繋がることを覚悟しての行動)であり、告発を行うこと自体が目的であった――そしてその背後に存在する、告発を教唆したいわば告発者Xとの対決が、今回描かれることになります。
 ミステリアニメの最終回で、物語全編を貫いてきた縦糸である事件の謎が明かされるというのはある意味王道ですが、このように犯罪とはいえない犯罪、犯罪者とはいえないない犯罪者というのは実に面白い設定で、警察権力ではない私立探偵が挑むに、まことに相応しい相手とも言えるでしょう。

 そして啄木は、この告発者Xを暴くため、怪しいと目を付けた――アバンタイトルでこれまでの告発者たちが登場する中、いかにも怪しく振る舞っていた、そしてビジュアルもちょっと怪しい――成瀬なる男を、牛鍋屋で開いた京助の誕生会に招き寄せることになります(普通に考えるとかなり無茶なやり方なのですが、まあこの時代の文士、というか啄木だしなあ――で済むのがちょっと面白い)。そして皆が酔い潰れた中抜け出した啄木は、告発者Xと対峙するのですが……

 この告発者Xの正体、いわば真犯人の正体はここでは明記しませんが、意外と言えば意外であり、すぐ予想がつくといえばすぐ予想がつくという人物。要するに、消去法で考えるとまあこの人物しかいない(今回用意されたミスリーディングは、正直ミスリーディングにもなっていない)のですが、さてミステリとしてそれを示す伏線があったかと言えば、ほとんどゼロに近い――という存在であります。
(実際、啄木もほとんど偶然に近い発見から告発者Xに辿り着いているわけで……)

 もちろん、告発者Xがそれぞれの告発者をどのように見つけていたか、そしてどのように教唆していたかのシステム自体はなかなか面白いのですが――正直なところ、その過去も含めて、いきなりそういうことを言われてもなあ、という想いは否めません。
 年齢についてもちょっと若過ぎではという印象で、その年齢で(直接犯行を行ったわけではないにせよ)これだけのことができるか――という違和感が先立ち、また自身が仄めかすこれまでの辛い半生も、説得力が薄いというほかありません。

 もっとも、「自分の命に意味を持たせるため」「社会に役立つ存在になるため」に、死と隣り合わせの告発に走った/人を走らせた者たちと対峙するのが、こうした「世のため人のための」想いとは対極にあるような、そして「何の役に立つかわからない」文学者であるという構図自体は実に良かったと思います。
 啄木も、一度はまさにその告発者の一人であった環と接することで、そうした想いを抱いたのであり、そして結局はそれに挫折しただけに……

 この点は、原作で希薄だった(意外性という点以外で)啄木が私立探偵となる意味・必然性に対する一つの答えとして、大いに評価できると感じます。
 それだけに、物語全編を通じて、もう少しこの構図がはっきり見えてくるような構成にして欲しかった、という印象は強くあります。さすがに全編告発者ネタで通すのは不可能にしても……


 というわけで、最終回というのに少々厳しい反応で恐縮なのですが、内容に対して途中で感じた幾度か違和感や不満点は最後まで拭われなかった――というのが、本作の全編を通じての正直な印象であります。
 特に、原作自体わずか五話しかなく、オリジナルで埋める必要があった――といっても、私は今どき珍しいオリジナル大歓迎派ではあるのですが――とはいえ、やはり江戸川乱歩オマージュを何度もやっている場合ではなかったのではないか、という点は強く感じます。

 同じオリジナルであっても――原作の啄木と京助の関係性を延長した先にあるような――若き文学者たちのわちゃわちゃする姿はなかなか楽しく、また啄木の結構容赦ないヒューマンダストぶりも、ある意味痛快ですらあったのですが、しかしミステリアニメ、それも原作付きの作品としてはどうだったか? そんな気持ちが後に残ってしまう作品でありました。

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