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2020.10.04

小山ゆう『颯汰の国』第5巻 悲劇と死闘と いま一つのクライマックス

 自由と誇りを賭けた颯汰たち高山藩の人々の戦いも、この第5巻で一つのクライマックスを迎えることとなります。宿敵・横山宗長の陰湿な攻撃が続く中、起きてしまった大きな悲劇。しかしその中から立ち上がった颯汰は、ついに宗長と決戦の時を迎えることになるのです。

 理不尽に藩を取り潰されながらも、自分たちの生きる場所を求め、幕府の直轄領を奪取し、土地の人々と新たな国を作った颯汰たち。彼らは、琴姫を狙う残忍な大名・横山宗長が繰り出す攻撃を幾度となく退けてきました。
 しかし、なりふり構わぬ宗長は忍びを送り込んで高山藩の人々を支える人々の家に放火するという攻撃を繰り返し、皆の心を疲弊させていくという陰湿な戦法に出ます。そしてその中で颯汰も、毒矢によって深手を負わされるのでした。

 それでも屈することなく、人々は次なる攻撃に備えて立ち上がります。そしてその中で颯汰の父は、このような非常時においても自分たちを信じようとする土地の人々との絆を糧に、自らも戦いに向かうのですが……
 一方、宗長の側も、度重なる敗北に加えて、忍びを使った攻撃で領民に死傷者を出したことが幕府から問題視され、大軍を発して一気に勝負を決することを決意。

 敵味方とも多くのものを失い、もはや後がなくなった同士、いよいよ決戦であります。


 というわけで、悲劇から始まり、そして決戦に終わるこの巻。そしてこの大きく状況が動く中で、中心にいるのが颯汰であることは言うまでもありません。一度は大きな悲しみに沈み、全てを投げ出しかけた颯汰ですが――ギリギリのところで踏みとどまり、立ち上がる姿が、この巻で描かれることになります。

 そこで彼を支えたもの――彼が自分の中にあると気付いたもの。それは、運命の理不尽に負けず、厳しくとも己の道を自分自身で選び取ろうとする意思であり――言い替えれば、人間の尊厳とも言うべきものであります。
 そしてそれはもちろん、一人颯汰のみが持つものではなく、彼の父をはじめとして、彼とともに戦う仲間たち全てが持つものであることは言うまでもありません。

 それはまた、力で人をねじ伏せ、欲望のままに行動する宗長の存在と、真っ向から対立するものであることは間違いありません。言うなればこの決戦は、人間性を軸とした両者の戦いであったともいえるでしょう。
 そしてその両者の対決の結末は――これは言うまでもありません。


 というわけで、物語的には一区切りとなったこの巻ですが――正直なところ(颯汰と琴姫の成り行きも含めて)悲劇も決戦の行方も、予定調和の範囲内で展開し、終わったという印象は否めません。その意味では、痛快ではあったものの、物足りないものもあったというのが、正直なところではあります。

 もちろん、この先も物語はまだ続くことになります。そして颯汰たちが掲げるものを否定する――それも宗長とはまた異なる形で――者たちとの戦いは、これからが本番なのでしょう。それは、この巻のラストで描かれた江戸城中の光景でも明らかであります。
 その戦いの中で最もどう作用するか判らない要素――すなわち颯汰の出自がどのように働くことになるかを含めて、物語を見守りたいと思います。


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