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2020.10.21

琥狗ハヤテ『ねこまた。』第6巻 仁兵衛とねこまたの過去・現在・そして未来

 江戸時代の京を舞台に、岡っ引きの好漢・ささめの仁兵衛親分と、彼にしか見えない不思議な存在「ねこまた」たちの日常を描いてきた四コマ漫画シリーズも、ついにこの巻で完結となります。仁兵衛の過去と今、これから――ねこまたと共に在る彼の物語も、一つの終わりを迎えることに……

 一軒に一匹憑いている、頭巾を被った何だか猫っぽい生き物(?)ねこまた。仁兵衛は、幼い頃の経験が元で、常人には見えないこのねこまたたちが見えるようになり、しかも自分に憑いた一匹、さらに家に居る四匹と暮らす岡っ引きであります。

 彼らと話している姿が独り言を言っているようにしか見えないことから「ささめ(つぶやき)」という渾名を頂戴している他は、偉ぶることも役目を笠に着ることなく、町を守ってくる存在として慕われている仁兵衛。
 そんな彼は、言うなれば「良い岡っ引き」というイメージそのままの存在という印象ですが、そんな彼も――作中でも言われているように、何となくこちらもそんな気分で見ていたのですが――もちろん最初から岡っ引きだったわけではありません


 そしてこの巻で登場するのは、仁兵衛を岡っ引きの世界に招いた、彼にとっては師匠とも「父」とも言うべき存在である蛟の親分。恐ろしげな名前に相応しい、ちょっと強面の親分ですが、しかし仁兵衛の師匠だけあって、やはり人情味溢れる男であります。

 本作では各巻にいくつか、四コマではなく短編で描かれるストーリー性の高いエピソードが収録されていますが、この巻での一つが、その蛟の親分と仁兵衛の出会い。
 今でこそ(ささめ以外は)ねこまたを見る力と折り合いを付けている仁兵衛ですが、若い頃は――というわけで、ある意味仁兵衛親分誕生秘話とも言うべきこのエピソードは、やはり本作らしく、時に仄暗くも温かい物語となっているのが印象に残ります。

 そしてもちろんこの巻では、ほかにも人情味に溢れた、そして微笑ましくも温かい仁兵衛と彼の周囲の町の人々、町のねこまたたちの日常が描かれるのですが――しかし、この巻の終盤では、そんな町とねこまたたちが、思わぬ、そしてあまりにも大きな危機を迎えることになります。

 その危機とは――ここでその詳しい内容は書きませんが、描かれてみれば、確かにこういう事もあり得るのだった! と、驚かされつつも、ある意味納得させられる展開。そしてこのために京という舞台だったのか!? というのは、ちょっと深読みしすぎかもしれませんが……
 いずれにせよ、これまでになかった規模の危機の中で描かれる仁兵衛とねこまた、人間たちのドラマは、これまで人と家と町に寄り添って描かれてきた物語の一つの総決算として――というにはあまりにも辛く、重い内容ではあるのですが――大いに胸打たれました。

 その一つの象徴ともいうべき、仁兵衛と蛟の親分の物語を見ればなおさらに……


 正直なところ、同じ作者の『アタリ』で描かれた仁兵衛とねこまたの姿が少々衝撃的であっただけに、こちらでも少々身構えてしまっていたのですが――あちらはあちらで一つの結末として、しかしここで描かれた、この『ねこまた。』という物語に相応しい、温かさと力強さと希望に溢れた、未来に開かれた結末には、大いに安心いたしました。

 そして、本書のあとがきで作者が語る、物語の外側から――物語の中におけるねこまたたちの正体は、『アタリ』で明かされてはいるのですが――彼らに込められた想いもまた実に心打たれるものであって、最後の最後までこの物語を読んできて良かった、と心から思った次第です。

『ねこまた。』第6巻(琥狗ハヤテ 琥狗ハヤテ 芳文社コミックス) Amazon

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