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2020.11.18

『魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち』 超能力文豪、怪奇の謎に挑む!?

 魔界で探偵でゴーゴリと、(人によっては)異常にキャッチーなタイトルの本作――ゴーゴリとはほかでもない、ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリその人であります。そのゴーゴリが一種の超能力探偵として、奇怪な黒騎士の謎に挑む伝奇ミステリー三部作の第一弾であります。

 1829年、前年に処女作を発表したものの全く評判は芳しくなく、秘密警察の書記官として口を糊する若きゴーゴリ。(自分の意思では操れないものの)触れた物の記憶を視るという特殊な能力を持つ彼は、それに目を付けた腕利きの捜査官・グローに引き抜かれ、彼の故郷に近いウクライナの小さな村、ディカーニカに向かうことになります。

 かねてから若い美女たちが狙われる連続猟奇殺人事件が起きているというディカーニカ。目撃者によれば、それは奇怪な角を生やした怪人・黒騎士によるものだというのですが――頑迷固陋な村人たちと非協力的な土地の警察に手を焼きつつ、グローの推理力とゴーゴリの霊感で、二人はある人物の犯行を暴くことになります。

 これで一件落着と思いきや、意外な事態が発生し、一人事件解決に挑む羽目になるゴーゴリ。黒騎士が殺したと目される、土地の性悪女殺しの謎に挑む彼が見たものは……


 これまでに何度も何度もこのブログで取り上げてきた有名人探偵もの。歴史上の有名人が探偵役となって謎に挑む――特に作家の場合にはその時の経験が後の代表作に繋がって――というのは、有名人探偵ものの典型的なパターンですが、本作はまさにそれであります。
 が、本作のゴーゴリは、上で述べたように、異能――いわゆるサイコメトリー能力の持ち主。一種の幻視者というべき彼の冒険が、『ディカーニカ近郷夜話』や『ヴィー』に繋がったと――いうのは、なかなか豪快な設定ではありますが、私のような人間には心ときめく趣向であります。

 もっとも、本作のゴーゴリの場合、その能力を使った後はほとんど必ず人事不省、というよりその場にブッ倒れるという副作用があり、登場するたびに必ずダウンしている――というのはさすがに大袈裟かもしれませんが、当たらずとも遠からずの状態。
 しかもそれに加えてコミュ障気味と、およそ探偵には向いていないゴーゴリですが――実は本作における彼は(少なくとも前半においては)相棒役なのであります。

 そう、本作の探偵役は、ゴーゴリではなくグローなる人物。このグロー氏、サンクトペテルブルクにその人ありと知られた凄腕ながら、慇懃無礼で傲岸不遜な男であります。
 しかもディカーニカに向かう揺れまくる馬車の中で悠然と食事したり(トランクから食事セットが飛び出してくるのが愉快)、埋葬された遺体を掘り起こして解剖した後にステーキを平らげたりと、一種の奇人なのであります。

 ――とくれば(食事云々はともかく)あの名探偵を思い起こさせますが、今回観た吹き替え版ではグローを三上哲、ゴーゴリを森川智之が吹き替えるという、直球にもほどがあるキャスティング。あまりにも狙いどころがはっきりしていて鼻白むのですが、しかしこれはこれでぴったりとはまっているというのも事実であります。


 さて、肝心の物語の方ですが、冒頭に述べたとおり本作は三部作の最初の作品。先に述べてしまいますが結末も完全にクリフハンガーで、ちょうど真ん中あたりで物語に一区切りあることも相まって、映画というよりもドラマを二本観たような印象があります。

 そして映像の方も、特殊効果などそこまで豪華というわけではないのですが――しかし雰囲気という点では、なかなか、いやかなり良いかと思います。
 こういう表現は失礼ではありますが、ロシア、東欧と聞いた時に思い浮かべてしまう、灰色の空を背景に陰鬱な伝承や伝説が囁かされる世界を、そこに生きる人々込みで再現してみせた――そんな手触りなのであります。
(まあ、ゴーゴリの描くディカーニカは、もっとあっけらかんとした民話的長閑さがあるように思うのですが)

 また、肝心の黒騎士の方は、物語の核心を握る存在だけあって、まだ出番は多くないのですが、これもちょっと面白い造形のキャラクター。(身も蓋もないことを言ってしまえば、『スリーピー・ホロウ』の首なし騎士的存在なのですが……)
 果たしてこの先、ゴーゴリと黒騎士の対決がどのように描かれることになるのか――本作でちらりと描かれたゴーゴリ自身の出生もこの先関わってくる様子も気になるところで、残り二作も早めに観たいと思います。


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