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2020.11.15

恵広史『カンギバンカ』連載開始 巧みなアレンジの漫画版『じんかん』登場

 前回取り上げた、今村翔吾の『じんかん』漫画版の連載が、11日発売の週刊少年マガジン50号よりスタートしました。『BLOODY MONDAY』などで知られる恵広史の作画によるこの漫画版のタイトルは『カンギバンカ』――第1話は一挙84ページ掲載となった本作、想像以上によく出来た作品であります。

 戦国史上最大の悪人――将軍足利義輝殺し・主君三好長慶殺し・東大寺大仏殿焼討ちという三大悪を為した人物として知られる松永久秀。その久秀が一度ならず二度までも叛いたという報に対し、信長が怒るどころか愉しげに、久秀を「義を捨てきれぬ男」と評する――そんな場面から始まる本作。

 そこから時代は一気に数十年遡り、九兵衛と甚助の兄弟が、人買いに捕まって売られていこうとする姿が描かれることになります。
 弟を庇って九兵衛が殴られている最中に現れた一人の少女と、その兄を名乗る少年。しかし少女に人買いどもが気を許した隙をついて、周囲から襲いかかったのは子供ばかりの野盗団でありました。

 またたく間に大の大人たちを片付けた一団の頭領・多聞丸に助けられた二人。自分たち同様、戦国の世で両親をはじめ様々なものを失ってきたという多聞丸たちに歓迎される二人ですが――しかし九兵衛は彼らを信じられず、甚助を連れて密かに抜け出すのでした。
 しかしそこを思わぬ相手に襲われ、窮地に陥る九兵衛たち。再び多聞丸に救われた九兵衛は、彼から思わぬ夢を打ち明けられ、仲間に誘われることに……


 というあらすじの第1話。何とも気になる冒頭の信長の姿から、九兵衛と多聞丸の出会いと彼らの過去、そして多聞丸の夢と「松永」の由来――と、冒頭に述べたように大増ページではあるものの、手際よくストーリーが展開し、キャラクター像が描かれていくのは、これは間違いなく、作(画)者の手腕によるものと感じます。

 しかし何よりも原作既読者として感心させられるのは、この第1話が、物語の流れやキャラクター配置は原作を踏まえつつも、細部はかなりアレンジを加え、それでいて原作のイメージを変えていないことでしょう。
 そもそも原作では物語は多聞丸視点で始まるところを、本作は九兵衛視点で始めているのが面白い。それによって多聞丸たちの「稼業」のインパクトがより強まるのはもちろんのこと、九兵衛が多聞丸に自分たちの過去を全て語る前にもう一エピソード挟むことで、より二人のキャラクターを掘り下げているのも巧みと感じます。

 そしてそこから国造りという多聞丸の大きすぎる夢に繋がっていく辺り、実に少年漫画らしい――さらに言ってしまえば少年マガジンの漫画らしい――味わいになっていて、描き方を少し変えることで、このように見せることが可能なのか、と驚かされました。

 ちなみに原作冒頭には、ほとんどの読者が引っかかったであろうある仕掛けがあるのですが――この語り起こしだとそれはちょっと難しいのではないかと思いきや、第1話終盤を見た限りでは問題なく繋がっているのもまた、なるほど、と感じさせられた次第です。


 この第1話の時点で消化したのは原作の5%程度と、まだまだ物語は序盤に過ぎません。そしてこの先、物語は予想もつかない激動に次ぐ激動の展開を迎えるのですが――この第1話で見せてくれた巧みなアレンジのセンスを見れば、この先の展開も大いに期待できると感じます。

 本作のいささか奇妙に感じられるタイトル『カンギバンカ』とは、漢字で書けば「奸義万華もしくは挽歌」とのこと。なるほど、世間からは大奸と誹られようとも、自分自身の義を背負って波乱万丈の人生を送り、それに準じた松永久秀を描く本作には、相応しいタイトルかもしれません。
 是非とも結末まで、この勢いで駆け抜けていただきたいものです。

『カンギバンカ』(恵広史 週刊少年マガジン連載)


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