« 出口真人『前田慶次かぶき旅』第5巻 夢の大決戦、いくさ人vs剣士軍団……? | トップページ | 『ゴールデンカムイ公式ファンブック 探究者たちの記録』 濃すぎる作品の濃すぎるファンブック! »

2020.11.24

畠中恵『あしたの華姫』 人形(と)探偵、跡目争いの渦中を駆ける

 両国の見世物小屋で評判の人形芸人・月草とその人形・華姫が探偵役という、ユニークでミステリ味の効いた連作シリーズの第2弾であります。今回描かれるのは、両国の顔役・山越の親分の跡目を巡る様々な騒動――親分の一人娘・お夏のため、月草とお華は奔走することになります。

 様々な娯楽が集まる両国で評判の芸人である月草と、姫様人形の華姫。かつて両国にあった真実を映すという井戸から見つかった水の玉を瞳にしているというお華は、「真実」を見抜き、語るという噂で人気を集めていたのであります。
 もちろんあくまでもお華は月草が操り、腹話術で喋らせている人形。真実を見抜くというのも、もちろん宣伝文句に過ぎないのですが――しかし何故か面倒事に巻き込まれやすい月草は、華姫と二人で解決に奔走することに……

 という基本設定のこのシリーズ、言うまでもなく、探偵役が人間と人形のコンビというのが、最もユニークな点であります。
 いや、お華は別に生きているわけでも妖でもなく、あくまでも月草が動かし、喋っているだけなので、正確には一人二役というか、二人で一人と言うべきなのかもしれませんが――なにはともあれ、頭は切れるけれどもちょっとヘタれの月草と、誰が相手でも物怖じせず切り込んでいくお華は、唯一無二のコンビであることは間違いありません。


 さて、そのコンビの活躍を描く本作は全5話――そこに共通するのは、山越の親分の跡目争いにまつわる騒動であるということであります。

 親分とお夏が麻疹でダウンして跡継ぎ問題に周囲が騒然としている中、親分の隠し子が現れさらに騒動が大きくなる「お華の看病」
 真っ赤な偽物であることがはっきりしていながらも現れた、親分の二人目の息子を名乗る男を巡る騒動「二人目の息子」
 跡継ぎの一番手と目されていたにもかかわらず行方不明となった、お夏の亡き姉の許婚を月草が追う「お夏危うし」
 お夏も親分も知らぬ間に囁かれる、かぐや姫めいたお夏の婿取り話の裏を月草が探る「かぐや姫の物語」
 親分を捕らえると正面から挑戦してきた岡っ引きがお華を味方と吹聴したことから、月草が周囲から追われることとなる「悪人月草」

 江戸で有数の歓楽街であった両国――その両国を仕切る親分ともなれば、その実入りも相当なものがあることは言うまでもありません。しかし山越の親分はまだ跡目を決めておらず、お夏もまだ十三歳とくれば、なるほどこれまで騒動にならなかったのが不思議なくらいです。

 もっともそんな跡目争いは、本来であれば月草には無関係な話であります。確かに山越の親分の仕切る両国は居やすい場所ではありますが、あくまでも月草は一介の芸人。跡目争いなどというおっかない話に、本来であれば首を突っ込むはずはないのですが――それでも月草が事件の数々に挑むのは、めぐり合わせの悪さや親分の命令に逆らえないからということはもちろんですが、もう一つは、お夏のためでもあるのでしょう。

 親分の一人娘――正確には前作描かれた亡き姉の存在があり、そして本作では二人の兄が登場するのですが、少なくとも形の上では――であるお夏は、お華の大ファンであり、お華を「友達」として接する少女。
 そんなまだまだ娘っ気の抜けない彼女が、ただ親分の娘に生まれたというだけで、その座を狙う連中に振り回されるのが許せない――というようなカッコいいことは月草は言いませんが、しかし少女の「あした」が原動力の一つである探偵というのは、大いに好感が持てるではありませんか。


 しかし本作の月草は、相変わらずヘタれではあるのですが、親分やら岡っ引きやら、面倒な人々の間をするりとかいくぐり、そしてお華の追っかけの「お華追い」たちを動かして事件解決の手助けにして――と実は有能な点が所々に見られます。
 何よりも真実を見抜くお華の言葉自体、実際は月草の言葉であるわけで――もしかして本作で一番食えないのは月草なのでは、と思えるのも面白いところであります。

 もちろんさすがにそれは買いかぶりすぎだとは思いますが、そんな月草自身も含めて、まだまだ「あした」が気になるシリーズであることは間違いないのです。


『あしたの華姫』(畠中恵 KADOKAWA) Amazon

関連記事
畠中恵『まことの華姫』 真実の先の明日

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 出口真人『前田慶次かぶき旅』第5巻 夢の大決戦、いくさ人vs剣士軍団……? | トップページ | 『ゴールデンカムイ公式ファンブック 探究者たちの記録』 濃すぎる作品の濃すぎるファンブック! »