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2020.11.04

石川優吾『BABEL』第7巻 新たな魔将の登場 そして一つの別れと再会

 新・八犬伝というよりも超・八犬伝というべき内容となってきた『BABEL』。巨大な竜との頭に乗る按司加那志の姿も強烈に印象に残る表紙のこの巻では、ついに薩摩編が完結いたします。そして新章では、恐るべき魔と化したあの武将、さらに大きな謎をはらんだ新キャラクターたちが登場することに……

 屋久島での死闘の末、島津軍に敗れて虜囚となった小文吾と、伏姫の導きによって薩摩に向かったものの同様に囚われの身となった犬塚信乃と左母二郎。
 島津の恐るべきマンハント「ひえもんとり」の贄として、騎馬武者たちに追われる身となった彼らですが、そこに島津の暴政打倒のために立ち上がった大友勢と丶大が駆けつけ、大乱戦が始まることになります。

 しかし敵味方かまわずフランキ砲を乱射する島津貴久の前に大友勢も大苦戦。全ての元凶たるこの貴久を倒さんと挑む小文吾と信乃に現八も加わって決戦が始まったものの、奇怪な機械人形(!?)の正体を現した貴久の前には歯が立たず……

 と、大混戦の中始まったこの第7巻。もはや魔力、というよりもオーバーテクノロジーの前に、果たして人間に打つ手はあるのか、と信乃や丶大ならずとも呆然としてしまいそうなところですが――強大な異国の魔に抗するのは、巨大なこの国の神しかありません。
 そう、琉球王国の巫女・聞得大君たる按司加那志がその持てる力を尽くした時に現れたのは――もはやここまでやるか、というほかない、とてつもない存在。とてつもないのですが、しかしそれを本作ならではの超画力で見せられては、もうこちらも納得するほかありません。

 特に、神の猛威を遠景から、音や台詞抜きにただ絵のみで見せた見開きは、強烈なインパクトであって――いささか大げさにいえば、おそらく本当に人が神を見た時は、このような気分になるのだろうと感じさせてくれるのであります。

 この、さすがの魔人貴久も唖然の光景に、按司加那志を守ってきた小文吾も俄然奮起してからの逆転は、これまでが酷く辛い展開の連続であっただけに、大いに盛り上がるのですが――その先に現れた魔の姿は、あまりにも皮肉と言うべきでしょうか。
 どこか虚しさを残しつつ、この巻の前半で薩摩編は幕を降ろすことになります。


 そして後半からは新章突入、永禄3年を舞台に、ついにあの戦国武将が物語に姿を現すこととなります。そう、永禄3年5月19日、歴史に残る奇蹟の大逆転劇を成し遂げた、あの武将が。
 しかしここで描かれるその姿は――これまで本作を読んできた人間であれば、ひと目でこれは危険、とわかるもの。単行本第1巻発売時の対談を見るに、本作が永禄年間を舞台としていること自体、この武将を出すためであったのだろう思われるのですが――だとすればこれからが本当の戦いなのでしょう。

 この新たな魔将の登場に対し、伏姫と八房の霊告に基づいて諏訪に旅立つ信乃――と浜路、左母二郎のトリオ。
 このトリオ、原典とはずいぶん異なる喧嘩友達的な関係性が、殺伐とした物語の中で非常にホッとさせられる要素となっているのですが――珍しくシリアスなことを語る左母二郎の言葉に、信乃が己の少年時代を思い返すこととなります。

 ここで描かれる信乃の少年時代は、原典のそれをほぼ敷衍したものであり、そしてそこで原典通り一つの別れが描かれることになるのですが――その先で描かれるのは、原典になかった一つの再会。まさかここで、ここでこんな再会が待ち受けているとは! と、原典ファンであれば落涙必死の展開であります。
 南総里見八犬伝を踏まえつつも、そこからとてつもない高さに飛翔している本作。しかしあくまでもその根源にあるのはその原典なのだと再確認させられる、心憎いエピソードでありました。
(そしてこのくだりのトリオの姿がまたいいんだ……)


 そして一つの過去を清算し、己が何者であるか再確認して、新たな戦いに向かう信乃。……なのですが、彼らが会うべく旅している相手である二人の人物の姿というのが、どうみても――であり、驚きと困惑は深まるばかりなのであります。
 果たしてこの先物語はどこに向かおうとしているのか、ある意味いま最も先の展開が読めない作品というべきでしょうか。


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