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2020.11.29

百舌鳥遼『鎌倉鬼譚 大江広元残夢抄』 異能の政所別当、鬼と魔に挑む

 先日来、再来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のキャスティングが話題になっていますが、ある意味タイムリーな作品――鎌倉幕府の創生期に源氏三代、そして北条氏を支えた政所別当・大江広元を鎌倉を陰から守る陰陽術の達人として描いた、極めてユニークな設定の物語であります。

 源頼朝、頼家亡き後、三代将軍実朝を支え、政所別当として奔走する広元。その彼を夜毎悩ますのは、頼朝と頼家の亡霊が恨みを訴えてくる夢、そして世にも恐ろしい風貌をした巨大な黒鬼が空から降り立つ夢でありました。
 蛍惑星の人と呼ばれた異才・大江匡房の子孫であり、自らも鬼一法眼直伝の陰陽術の遣い手である広元は、これが何者かの術に因るものと断じ、密かに調べ始めることになります。

 その頃、鎌倉を騒がしていたのは御家人ばかりを狙った辻斬り。その魔手は広元にも迫るのですが、彼の前に姿を現した相手はまさしく「鬼」と言うべき奇怪な怪物だったのであります。
 さらに時同じくして、共に幕府を支えてきた執権・北条義時と侍所別当・和田義盛が、不可解なほどに感情をぶつけ合い、一触即発の状態に。この一連の事態の陰に、「鬼」と、さらに恐るべき存在を察知した広元ですが、時既に遅く、最悪の事態が勃発して……


 比較的フィクションの題材となることが少ない鎌倉時代。源氏三代(と元寇)はその数少ない例外ですが、しかしそんな中でも、大江広元を主人公とした物語はほとんどなかったのではないでしょうか。
 源頼朝に招かれて京から鎌倉に下向し、はじめ公文所別当、後に政所別当として、文と政によって鎌倉幕府を支えた広元。しかしあくまでも武士ではなく貴族出身の彼の存在は、いささかならず地味に感じられるのですから。

 しかし本作で語られているように、彼は異才を以て知られた大江匡房の子孫。この匡房は学者・歌人であると同時に兵法にも優れ、あの源義家の師であったという伝説が残る、不思議な人物であります。
 そしてその曾孫である広元には――あまり(伝奇的に)面白いエピソードはないのですが、武人だらけの鎌倉の中で、数少ない文人として幕府を支えた彼に、武に対する術の人というキャラクターを与えたのは、本作のユニークな着眼点であることは間違いありません。


 その一方で、彼の敵となる「鬼」、そしてその背後の魔の正体は、これはこの時代の伝奇ものの定番中の定番で、人によってはすぐにわかってしまうのがいささか残念なところではあります(そもそも、版元などの作品紹介では明示されてしまっているのですが……)。
 また、その魔に操られた人々によって、史実の上でのある事件が引き起こされたという展開も、いささかストレート過ぎるように感じられます。

 こうした点は正直なところ勿体なく感じられるのですが――しかし終盤の魔との決戦は、広元だけでなく、意外な人物の意外な活躍もあり、なかなか盛り上がるところではあります。
 また、出番はそこまで多くはないものの、義盛の子であり、豪勇を謳われた朝比奈義秀のキャラクターは魅力的で、特に終盤で描かれる「鬼」の正体との繋がりは泣かせどころ。そこから彼のある伝説に繋げていく結末も巧みであります。


 本作はそれ自身で物語は完結はしていますが――しかしまだまだ混沌と動乱の時代である鎌倉初期。何よりも本作で広元が支えた実朝にも、この後過酷な運命が待つわけですが――その中で陰陽師・大江広元がどのような役割を果たしたのか、この先の物語を見てみたい気持ちは、確かにあります。


『鎌倉鬼譚 大江広元残夢抄』(百舌鳥遼 青燈舎) Amazon


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