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2020.11.22

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第15巻 マイナーな戦に集まる新たな力

 ついにうつけの仮面を取り去り、今川家に一撃浴びせた信長。古くからの仲間との別れ、そして新たな仲間との出会いを経験した信長の次なる敵は、清洲に巣くう守護代一派であります。さらに頼もしい仲間も加わり、信長の快進撃は止まりません。

 喉元に突きつけられた刃であった今川方の砦を落としたものの、初期から信長の傍らに在った猿若をはじめ、多くの配下、いや仲間を失った信長。しかし去る猿あれば来る猿あり、信長の前に現れた猿顔の男・木下藤吉郎の才覚によって、信長は獅子身中の虫であった清洲勢一掃の機会を得ることに……

 というわけで、この巻の前半で描かれるのは、これまで幾度となく信長の前に立ち塞がってきた、いや陰で悪だくみを巡らせてきた宿敵・坂井大膳一派との戦い――安食の戦い。いつものことながらマイナーな合戦を題材とする本作ですが、しかしこれもいつものことながら、その合戦が、なかなかに熱い戦いとして描かれることになります。

 これまで傀儡として操ってきた守護・斯波義統を、ついに切腹に追い込んだ大膳と、仲間の河尻左馬丞・織田三位。実はこの挙は、藤吉郎の策による仲間割れの結果だったのですが(なにげにヒドい)――義統の子が信長を頼ってきたことで、信長には大膳攻めの大義名分ができることになります。

 かくて、清州城攻めに向かった信長と母羅衆ですが――その友軍となったのは、何とこれも信長の宿敵である弟・信行方であるはずの柴田勝家であります。
 以前、萱野の戦いで信長のいくさぶりを目撃して以来、いくさ人としての信長の存在に惹かれていた勝家。それが今回は大義名分を得て堂々と信長と轡を並べる――いや、互いの背を預けるのですから、これが盛り上がらないはずがありません。

 さらにそこに新たに登場するのは、かつて義統の家臣であった太田牛一。言うまでもなく後の「信長公記」の作者ですが、この時代は弓使いの若き荒武者として登場することになります。
(そしてもう一人、やけに軽装で妙にインパクトのあるビジュアルの男・由宇喜一が登場するのですが――これはその「信長公記」に湯帷子で戦ったと記録があるからなのでしょう)
 そんなわけで藤吉郎も含めて次々と新たな力が集まる中、信長ご自慢の長槍隊の恐るべき真価も発揮され、終わってみればこの安食の戦いは信長の横綱相撲で終わることになります。

 その後(いきなり戦いの後に「翌年」となったので誤記かと思いましたが、これは史実)、逆転を狙って信長の叔父・信光を籠絡せんとした大膳ですが、信光はかねてより信長に賭けてきた男。策にはめたつもりが逆にはめられ、ついに失脚することになるのでした。

 ちなみにここで新キャラとして登場するのが滝川一益。信光を守って二丁火縄銃で大暴れするというなかなかおいしいデビューを飾った一益ですが、左目が照星のようになったビジュアルと、「ガッ!! ○○○ズム!」という本作の(非美形)キャラにはお馴染みの面白口癖のおかげで、何とも得体の知れぬ人物になっているのを何と言うべきか。一応彼は前田慶次の縁者なわけですが……


 何はともあれ、これで信長の尾張統一がまた一歩近づいた――と思いきや、ここで思わぬ出来事の余波が尾張を、いや諸国を襲うことになります。それは軍師として今川義元をこれまで支えてきた太原雪斎の突然の(本当に、前巻まではピンピンしていたのに……)死。それによって一気に崩れた周辺諸国のパワーバランスが、回り回って信長に影響することになります。

 野望を露わにした息子・義龍と対峙することとなった斎藤道三。どうにも正室である帰蝶の影が薄い本作ではありますが、しかしそれでも道三は彼女の父であり、今の信長にとっては大事な後ろ盾であります。
 そしてこの道三の窮地に、信行がまたぞろ調子に乗り出した中、今度はマイナーではないいくさで信長がどう動くのか、そしてその先のドラマをいかに描くのか――次巻に続きます。


『いくさの子 織田三郎信長伝』第15巻 (原哲夫&熊谷雄太&北原星望 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon

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