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2020.11.23

出口真人『前田慶次かぶき旅』第5巻 夢の大決戦、いくさ人vs剣士軍団……?

 九州に渡って大暴れしているうちに、何だかとんでもない面子が周りに続々と集まってきてしまうという、ある意味実に「らしい」展開となってきた本作。キリシタン勢力を先導するガルシア神父一派との果たし合いは、この巻ではとんでもないオールスターの大いくさに発展することになります。

 慶次の発案で加藤清正の前で行われた御前試合で弟を立花宗茂に討たれたことを恨みに思い、果し状を叩きつけてきたガルシア。
 しかし彼の正体は、海底に眠る巨万の黄金を軍資金に、キリシタン勢力の蜂起を目論む男――そして彼に協力するのは、初代佐々木小次郎と丸目蔵人、そして新免無二斎と武蔵というおそるべき剣士軍団であります。

 一方、慶次の側に立つのは、清正と宗茂に加え、柳生兵庫と彼に従っていた謎の男・左兵衛――その正体は島左近! 慶次とSAKONの夢の顔合わせをはじめ、こちらも稀代のいくさ人ばかりが集まったドリームチームというほかありません。

 かくて孤島を舞台に、いくさ人vs剣士の真っ向勝負が描かれる! と思いきや、物語は思わぬ方向に向かうことになります。
 正々堂々の決闘など愚か者のすることと言わんばかりに、自分の側は数百の兵を集めていたガルシア。そこまでで止めておけばよかったものを、剣士軍団に対して、お前たちはもう用済みなどと嘲ってしまったのですから、どちらが愚かかわかりません。

 面子を潰すことが一番のタブーなのは、いくさ人も剣士も同じ。其処に触れたら後はもう生命のやり取りしか残らんというわけで、いくさ人vs剣士、ドリームチーム同士の戦いのはずが、さらにとんでもないドリームが……


 外国人キャラが日本武士を舐めて痛い目に遭うというのは、これはまあ時代劇では(武士をほかの職業に入れ替えれば様々なジャンルで)ままあるシチュエーションではあります。しかし、今回ほど知らないということは恐ろしい――と思わされる展開はありません。
 ましてや数を恃んで相手を呑んでかかるというのも、これまた盛大なフラグで、もはやキリシタンでなくとも天を仰ぐしかないではありませんか。

 しかしガルシアには申し訳ないですが、この展開は読者にとってはもちろん大歓迎。あのいくさ人が! あの剣士が! フィクションの舞台設定だから(禁句)やりたい放題大暴れできるのですから、これはもうたまりません。
 特にこの巻では、しばらくご無沙汰だった感のある慶次と松風が戦場で大暴れ。槍の一振りが、蹄の一撃が、有象無象を景気よく吹き飛ばし、踏みつける様は、まさに千両役者というべきでしょうか。

 もちろん彼以外の面子もそれぞれに見せ場を披露、特に無数の敵を相手に、二人一組となって互いの背中を守る(はずが攻撃力高すぎてそれぞれガンガン攻めに行く)様は、戦国ファン、剣豪ファン垂涎の展開というほかありません。


 というわけで、この巻は豪快なアクション中心ゆえ、物語内容の紹介はあまり書けないのですが――とにかく本作が目指しているであろう、一種の講談めいた面白さ、豪傑たちが寄り集まって理屈抜きの大暴れを繰り広げる愉しさは、この巻で一つの頂点を迎えた感があります。

 終盤にはとんでもない(でも予想できた)伏兵まで登場し、いよいよ追い詰められたガルシアですが、しかし彼も西洋のいくさ人。果たして一矢報いることができるのか――この先描かれる戦いの結末に注目であります。

『前田慶次かぶき旅』第5巻(出口真人&原哲夫・堀江信彦 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon

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