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2020.12.27

『明治開化 新十郎探偵帖』 第3回「万引き一家」

 大店の浅井家で、夫が何者かに惨殺されてから店を取り仕切る女主人・スギが、万引きの常習犯だと町の噂になっていた。さらに店の下男が死体となって町で発見され、新十郎は娘のキクから調査を依頼される。浅井家の主治医・花田は、一連の殺人の犯人はキクに言い寄っていた庭師の梶谷と主張するが……

 考えてみればまだ第3話なのですが、ずいぶん長く観ているような気がする――それだけお馴染みになった――印象のある本作。今回は『明治開化 安吾捕物帖』の第5話「万引家族」をベースとしたエピソードです。

 今回の舞台となるのは、主人の権六が何者かに顔を潰されて惨殺される、後を継いで店を取り仕切るその妻・スギが出かけるたびに万引きをする、そして下男が頭を殴られたような死体となって発見される――と、おかしな事件ばかりが続く老舗問屋・浅井家。
 家の主治医の花田は、スギの奇行は店を背負うことになったストレスから、そしてその原因である権六の惨死と、今回の下男の死は、権六の死とともに行方をくらました庭師の梶谷が犯人に違いないと主張――梶谷は店の娘のキクに言い寄り、それを撥ね付けられた恨みで犯行に及んだと言うのであります。

 そのキクが梨江の友人であった縁で調査を引き受けることとなった新十郎ですが、当の花田医師が、下男の死体が発見された現場から走り去る姿が目撃され、警察に捕らえられることに。しかしその間に、浅井家に植木バサミが投げ込まれる事件が発生し、いよいよ事件は混迷を深めることに……


 原作とは大きく内容を変えてきた前回に比べれば、かなり原作に近い印象を受けた今回。といっても舞台となる一家の設定は大きく異なり、原作ではキクのほかに男子が三人おり、物語の中心となるのは次男の下に嫁入りした女性なのですが――この辺りはドラマではバッサリカットされています(そもそも家の名前自体異なる)。
 実は原作では、権六が癩病患者と言われていたことが物語の大きなフックとして存在しており、権六の死も殺人ではなく自殺という扱いなのですが――その辺りの陰惨な設定をある意味裏返しつつ、根本となるトリックは活かして物語を設定した点が、今回のアレンジの面白さでしょう。

 そのために、細部は相当異なる物語が、事件という点だけでみれば原作と重なって見えるという、ちょっと不思議な印象に繋がっていると感じます。
 もっとも、スギだけではなくキクも万引きをしていた(そしてそれにきちんと理由がある)原作に比べ、スギのみが万引きを行っている本作に「万引き一家」というサブタイトルは合っていないようにも思いますが……


 さて、これまでのエピソードでは、事件の背景に明治という新時代への異議申し立てが存在していましたが、今回は事件そのものではなく、並行して語られる新十郎の過去の中でそれは描かれることになります。
 これまで洋行帰りという設定のみが語られてきた新十郎ですが、彼は実は幕臣の子。そして彼がただ一人アメリカに送り出されている間に、戊辰戦争で家族は全て命を落としていたのであります。

 第1話で勝海舟と出会った時に微妙な表情を見せていたものが、今回たまたま勝家を訪れていた西郷隆盛を前にした際には、はっきり敵意とすら言える態度を見せる新十郎。新時代の申し子とも言うべき彼においても、その内側では、新時代に対して深い屈託があることがここで示されたというべきでしょう。

 あるいはその屈託が、今後何らかの形で噴出することもあるのかもしれません。しかしその一方で、ラストの何とも微笑ましい新十郎と梨江の姿を見ていると、明治という新たな時代には、また新たな希望がある――そう感じさせてくれるのも、また事実なのであります。


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