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2020.12.23

さいとうちほ『輝夜伝』第6巻 運命に翻弄される天女たちと想いに翻弄される男たち

 新たなかぐや姫の物語もいよいよ佳境――自分自身の出自と梟の正体、そして血の十五夜の真実を知り、梟と共に内裏から出奔した月詠。天女の運命から逃れる手段を求め、再び葛城の里を訪れた月詠と梟を待つものは何か、そして梟に斬られ、月詠に去られた大神の選択は……

 男装して北面の武士となり、兄が死を遂げることとなった血の十五夜事件の真実を追い求めてきた月詠。その最中、かぐや姫と出会った月詠は、自分たちが天女と呼ばれる存在であることを知ることになります。
 そして不老不死の霊薬を舐めて子供になってしまったかぐや姫の代役として、帝との婚礼に臨むこととなった月詠。しかしその難役をこなした直後、彼女はその前に現れた仮面の西面の武士・梟から、数々の真実を告げられることになります。

 自分の母が天女であったこと、梟の正体が血の繋がらない兄・竹速であったこと、そして血の十五夜で竹速は一度死んでいること――衝撃の告白の数々により、そしてある意味自分の目的であった兄との再会により、滝口の武士としての任を捨てることを選んだ月詠。彼女は竹速に連れられ、故郷である葛城の里を再訪するのですが……


 と、前巻の終盤から衝撃の告白ラッシュが続く本作。それはこの巻においても続き、以前、竹速=梟が殺したと思われた月詠の育ての親である葛城の翁の死の真相が語られ、梟を巡る疑念の数々は、ほぼ完全に解き明かされることになります。
 それでもなお謎として残るのは、月詠が月の使いから逃れる方法――半分とはいえ天女の血を継ぐ彼女が、地上で生き続ける方法であります。月詠の母が、すなわち天女が残したものを探す旅の中、月詠は血の繋がりのない兄への思慕をはっきりと意識するのですが――それがさらに事態をややこしいものへと変えていきます。

 これまで月詠を仲間として助けながらも、強く想いを寄せてきた大神。しかし彼は梟の毒の太刀に斬られた上に目の前で月詠を連れ去られるという、心身ともに深手を負うことになります。そんな彼に手を差し伸べたのは、なんとこれまで幾度となく対立してきた宿敵ともいえる治天の君。そしてその手を取った大神は、今度は西面の武士として二人に立ちふさがるのであります。

 考えてみれば、治天の君もかつては天女を愛し、そして去られた身。その意味では彼も大神も、近しい立場にあるといえなくもありません。しかしその後の行動を考えれば、明らかに道を外れているとしかいいようがない治天の君と手を組むということは、そのまま大神も道を外れていくということでは――と、心配にならないはずがありません。
 前巻でいきなりゲスい奴になった凄王も、親友の意外な行動を前にしてまともに戻った感もあるほどで(というかこの状況で脇からちょっかいをかけ続けたらそれはそれで凄い)――これまで比較的正統派の相手役だった大神が、それだけその印象を大きく変えてきた、ということでしょう。

 なるほど、これまで天女という運命に翻弄される月詠とかぐや姫にばかり目が行っていましたが――そしてそれが「竹取物語」をいまこの時代に描く意味の一つであることは間違いないとは思いますが――しかし、その彼女たちへの想いに翻弄される男たちも、また運命の犠牲者というべきなのだと、ここで気付かされます。
 その一方で、ただ一人、天女への想いから自由であるように見える竹速もまた、月詠を救いたいという執着に縛られている――というより、その執着が彼という存在をこの世に残しているかのように感じられます。

 そして物語の中で唯一、互いの想いが通じ合っているかぐや姫と帝もまた、愛が成就したその時に引き裂かれる身であるとすれば――誰もが運命に翻弄されているこの物語に、果たして救いはあるのでしょうか。
 それがあるとすれば、月詠の母が遺した品にヒントが隠されているはずですが――しかしまだまだそこに秘められたものの正体は、そして物語の向かう先は見えないのであります。


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