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2020.12.26

週刊朝日「2020年歴史・時代小説ベスト3」に参加しました

 今年もこの季節がやって来ました。「週刊朝日」の歴史・時代小説ベスト3――昨年までのベスト10から模様替えとなりましたが、ありがたいことに今回も投票に参加&コメントを掲載していただきました。

 今年で12回めとなるこの企画は、文芸評論家や書評家、新聞・雑誌の書評担当者、編集者、書店員ら「本読みのプロ」の方々を対象にアンケートを実施したもの――と書いてみると何だか面映ゆいものがありますが、何はともあれ私もその末席に加えていただいて、今年で4年目となります。

 冒頭に述べたとおり、今までベスト10だったものが、今年から上位3冊まで――そして選外の作品から編集部が注目した4作品を選ぶ形となったこの企画。
 正直なことを申し上げれば、やはり取り上げる作品が少し減ったのはいささか寂しい気もしますが――しかしやはり回答する側にとっては、そして何より一読者としても、一年を締めくくるものとして、大いに楽しみな企画であることは言うまでもありません。


 さてその結果については――これは是非実際にお手にとって見ていただきたいのですが、なるほどと感心したり意外に思ったり、実に興味深く、かつ参考になる結果であることは確かであります。
 そして個人的には――これはちょっと内緒の話ではありますが――普段好き放題に作品を紹介している身にとって、その感覚がどれだけ世間に通じるかを確認する場にもなっているのですが、今年もまずまずだったかな、と少々安心しております。


 さて、ここで終えるのも寂しいので、最後に私のベスト3を記しておきたいと思います。

第3位『紅蓮浄土 石山合戦記』(天野純希 KADOKAWA)
 石山合戦を背景に、本願寺の尖兵である忍びの少女らの姿を通じて、人間の信仰とは、あるべき生とは、を描いた佳品。歴史小説としての物語の厚みはもちろんのこと、エンターテイメントとしても優れた作品となっているのは作者ならではというべきでしょう。
 宗教集団の矛盾や欺瞞を描きつつも、それと同時に、宗教の持つ意味を肯定的に描いてみせるのにも感心させられました。
 このブログでの紹介記事はこちらこちらです。

第2位『まむし三代記』(木下昌輝 朝日新聞出版)
 戦国一の梟雄・斎藤道三がその父から受け継いだ恐るべき武器「国滅ぼし」。その謎が物語を強烈に引っ張る縦糸として機能しつつ、国を医すことと人として生きることの相剋に苦しむ一族として斎藤家の人々の姿を横糸として描く構造の巧みさで、最後の最後まで目が離せない作品でした。
 今年は「国」と「民」「人間」のあるべき姿を描く作品が多く見られましたが、本作もその一つと言うべきでしょう。
 紹介は――いずれ改めて。

第1位『震雷の人』(千葉ともこ 文藝春秋)
 中国は唐代の安史の乱を背景に、大切な人間を奪われた兄妹の波乱に富んだ生き様を描く本作は、「国」の、「民」の、あるいは「人間」のあるべき姿を問いかける作品の中でも大きな収穫の一つと感じます。
 暴と武が荒れ狂う無法の世に苦しむ人々を描きつつも、その中でもなおも人の世を支える「文」の姿には、大きな希望を感じることができました。
 このブログでの紹介記事はこちらこちらです。


 なお、このベストの対象期間は昨年11月から今年の10月までなのですが――締切を過ぎた、即ち来年の対象作品にも、既に大いに気になる作品が登場しており、本当に気の早いお話ですが、今から次回を楽しみにしているところであります。


「週刊朝日」2021年1/1-1/8合併号(朝日新聞出版) Amazon

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