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2020.12.13

『明治開化 新十郎探偵帖』 第1回「仮装会殺人事件」

 政商・加納五兵衛が主催した仮装舞踏会で、衆人環視の下、五兵衛が何者かに刺殺された。宰相や外国大使が列席する中の怪事件に、その場に居合わせた警視総監は、洋行帰りの名探偵・結城新十郎に事件解決を委ねる。自称相棒の泉山虎之介やその師・勝海舟の推理に対し、新十郎の出した答えは……

 年の瀬にBSプレミアムで放送開始となった注目作、坂口安吾の『明治開化 安吾捕物帖』を原作とする時代ミステリシリーズです。
 原作は1950年から約二年間に渡り連載されたシリーズ――角書どおり明治の文明開化の頃を舞台に、あの勝海舟と、洋行帰りの名探偵・結城新十郎が推理合戦を繰り広げるという、推理小説ファンでもあった安吾らしい、様々な趣向に富んだ作品であります。

 その原作をこのドラマ版では、新十郎役を福士蒼汰が、勝海舟役を高橋克典が担当、どちらも――そして他のキャラクターたちも――なかなかのハマりようで、まずはこの第1回は興味深く見ることができました。


 政府と結んで幅を利かせる大政商・加納五兵衛邸で行われた仮装舞踏会。その背後に、フランスの資金援助を受けての大製鉄所建設という思惑を秘めて開催されたこの舞踏会には、総理大臣、警視総監、フランス大使、五兵衛のライバルや彼と結ぶイギリス大使と、錚々たる顔ぶれが揃っていたのであります。

 しかしその真っ最中、駕籠かきに扮していた五兵衛が胸を掻き毟って倒れたと見れば、助け起こされたその胸には短刀が突き刺さっていたではありませんか。
 この怪事件に、速水はこれまで数々の難事件を解決してきた洋行帰りの美青年・結城新十郎に出馬を請うことになります。早速加納邸に現れた新十郎(と相棒気取りの剣術使い・泉山)は、実況見分に当たるのですが……

 というこの展開自体は、ほぼ原作の第1話『舞踏会殺人事件』に忠実な内容。この後、新十郎と共に情報を集めた泉山が、剣術の師である勝海舟に得々と報告し、それを踏まえて海舟が安楽椅子探偵ぶりを発揮するも――という辺りの展開は原作の定番パターンで、それはもちろんこのドラマでも再現されることになります。

 もちろん原作とこのドラマの細部は色々と異なります。原作でのもう一人の素人探偵である花廼屋因果はこのドラマではちょっと後ろに下がった傍観者的役割――というのはいいとして、原作では対面していない新十郎と海舟が顔を突き合わせたり、原作には登場しない西郷隆盛が登場したりと、幾つかのアレンジが施されております。

 そして何よりも大きく異なるのは、犯人の犯行動機なのですが――それをここで書いてしまうのは明らかにルール違反なので、はっきりとは書きませんが(それでもかなり匂わすのでここから先はご寛恕下さい)、原作では個人的な、敢えて言葉を変えれば「小さな」動機であったものが、このドラマ版においては、個人的であると同時に時代背景に根ざす「大きな」ものとなっているのは、これは注目すべき相違点でしょう。

 国家事業に関わる暗闘という「大きな」――しかしその背後では娘を人身御供に出そうというまことに卑しい動きがあるわけですが――背景に対して、実際の犯行動機は極めて卑近なものであった点が、いかにも安吾らしい皮肉さと感じられる原作。
 それに対して、背景と直接ではないものの結びついた、この明治という時代に対する疑問符が動機ともいえるこのドラマ版は、展開と犯人は同じでありながら、その描くものは大きく異なるようにも感じられます。(しかしこの動機が、原作では賑やかしに近かった梨江のキャラを立てているのには感心)

 元々、明治時代と、作品が発表された終戦直後という時代を二重写しで重ね合わせる趣向があった(と言われる)『安吾捕物帖』。その原作をどのように今回料理してみせるか、その点が実は最も気になっていたのですが――なるほど、ある意味直球の時代もの的アプローチなのかな、と感じました。
 そしてその点は、いかにも海舟に対して含むところがありげな新十郎の態度や、西郷の登場といった、先に述べたドラマオリジナルの要素と結びついていくのではないか――と第1回の時点で語るのは時期尚早ではありますが、考えてしまったところであります。


 しかし――ドラマ冒頭で「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。」と安吾の『堕落論』の一説が引用されたり、作中で新十郎がそれっぽいことを呟いたりという演出は、幾らなんでも『UN-GO』――同じ原作を題材に、近未来を舞台に描いてみせた意欲的なアニメ――に被り過ぎではないでしょうか。
 ……というのはファンの僻目ですが、同じ原作をどう料理したのか、視聴者の皆様にはぜひこちらも合わせて観ていただきたいと、強く思う次第です。


関連サイト
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