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2020.12.08

技来静也『拳闘暗黒伝セスタス』第2巻・第3巻 セスタスの怒り ルスカの屈託 ネロの孤独

 古代ローマは皇帝ネロの時代、自由を求めて死闘を続ける少年拳奴・セスタスの戦いを描く『拳闘暗黒伝セスタス』の紹介、今回は第2・3巻――今となっては貴重な、初々しいセスタスとルスカの姿が描かれますが、内容の方はやはりなかなかにヘビーであります。

 敗北=死である拳奴の世界で、自由の身となるべく、今日も訓練に励むセスタス――ですが、ある日彼に下ったのは、皇帝ネロからの宮廷への招き。何事かと思えば、そこで待っていたのは彫像のモデル役であり、そこでセスタスはルスカと再会するのでした。

 平和だが退屈な時間が流れる中、時同じくして招かれていた旅芸人一座の軽業師・アシュレイと知り合うセスタス。何かとセスタスをからかうアシュレイですが、ある日彼が知ってしまったその正体は男装の少女。しかし彼女には、さらなる秘密があったのです。ネロを狙う暗殺者という顔が!
 ネロ暗殺に向かうも、影武者を務めていたルスカに阻まれ、逃走する途中、セスタスに取り押さえられるアシュレイ。しかしセスタスは思わぬ方法で、ネロやその母・アグリッピーナにアシュレイの助命を願うことに……

 という第2巻(第Ⅱ章)。周囲に非常に女っ気の少ないセスタスには珍しいヒロイン(?)アシュレイが登場するエピソードですが、男装の少女の入浴シーンに出くわして――などというドキドキシーンはあるものの、ローマに故郷を滅ぼされたアシュレイの復讐心と、ネロを除かんとする先帝派の残党の思惑が絡み合っての陰謀劇は、やはり本作に相応しい重たさがあります。

 そしてその陰謀が露見した後、自分が生命を狙われる理由がわからず狼狽するネロ、命懸けの一芝居を打ってアシュレイを救おうとするセスタス、思わぬ形でセスタスのフォローを務めるルスカと、三人の少年がそれぞれ彼ららしい姿を見せるのが面白い。
 特にルスカはある意味一番思い切った行動を取るのですが、そこに彼が抱える父・デミトリアスに対する屈託の存在が垣間見られるだけでなく、後に語られる彼とネロの「因縁」を知れば、この場面がより深く感じられるのも見事であります。

 そしてその一方で、今回の経験で学んだセスタスが拳奴として一皮むけるという展開も、格闘ものとして面白い捻りであります。
 また、これまで以上に深い孤独感に苛まされるネロは、セスタスに自分の傍らにいてくれと懇願するのですが――格闘家としての生真面目さからこれを断ってしまうセスタスという構図のままならなさにも唸らされます。


 一方、第3巻(第Ⅲ章)では、貴族のドラ息子たちに対して5人抜き勝負を挑むセスタスという、スポ根漫画的シチュエーションが描かれることになります。
 ある日、徒手格闘兵団の訓練生の練習試合相手に駆り出されるセスタスら拳奴たち。しかし試合というのは名ばかり、そこで待っていたのは、身分を嵩に来た貴族の子弟たちのサンドバック役だったのであります。

 師までが辱めを受ける姿に怒りを燃やすセスタス(彼の順番の時、殴られた瞬間に衝撃を流す防御で凌ぐのが、また格闘漫画的でイイ)。しかしそこに兵団の長であるデミトリアスが現れ、訓練生と拳奴たちに5vs5マッチを命じたことで、状況は大きく変わります。
 これまでの鬱憤を晴らすべく、5人抜きに挑むセスタス。しかし追い込まれた訓練生側が用意した最後の相手は、謹慎処分を受けてこれまでその場にいなかったルスカで……

 と、体躯と数で勝るだけの雑魚相手にセスタスがそのテクニックを存分に活かして戦う(途中相手の反則技に苦しむのも定番)という展開から一転して繰り出される、宿命のライバルの二度目の対決という黄金カード。 前回、第1巻で対決した際は、ルスカの総合格闘術相手に文字通り手も足も出なかったセスタスですが、今回は拳闘ルールで互角以上の戦いを――という設定の妙が光ります。

 もちろんルスカも随所に天才ぶりを見せるのですが、一つのルールに適応したテクニックのみを磨いたセスタスが上回るという展開も説得力十分。しかしその後思わぬ事態となって、「やはり拳闘では総合に勝てないのか?」という、実に格闘もの的命題が提示されるのも面白いところであります。

 その他、デミトリアスのバトルマニアぶりが存分に示されたり、いずれも一癖有りげな彼の配下が結集したりと、ケレン味溢れる部分もいいのですが、やはり印象に残るのは、ルスカの抱える屈託の姿でしょう。
 そんな彼にとって唯一の救いである婚約者の美少女・ヴァレリアがここで登場、セスタスら拳奴にも優しい天使のような彼女が、よりによって拳奴たちを支配する悪魔のような男・ヴァレンスの娘だった――という因縁を描いて終わるのも、また見事であります。

『拳闘暗黒伝セスタス』(技来静也 白泉社ジェッツコミックス) 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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