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2021.01.13

士貴智志『爆宴』第1巻・第2巻 異世界の梁山泊! 少女は「宋江」になる!?

 『どろろと百鬼丸伝』も好調の士貴智志が、かつて『XBLADE』で組んだイダタツヒコを原作に迎えて描く、異世界活劇にして「水滸伝」――侵略者たちに全てを奪われた少女と、梁山泊のあの英傑たちが、喪ったすべてを取り戻すため、いま立ち上がります。

 ある日突然、謎の侵略者によって、平凡な女子高生・津村晶ひとり残して滅び去った地球。しかし、もはや絶望の中で死を待つばかりとなった晶の前に、他の世界で敵と戦い続けてきたという青年・九紋竜の史進が出現した時、晶の心に生きようとする想いが蘇るのでした。

 そして彼女を「宋江」と呼ぶ謎の人物「公孫勝」からの声に従い、そこに現れた異世界への門をくぐり抜ける二人。その先に広がっていたのは、古代から未来に至るまで、様々な時間と空間が入り混じったような奇妙な都市だったのであります。
 それこそは、晶の世界をはじめ、様々な世界を食い荒らす侵略者・神蟲を操り、数多の世界を滅ぼしてきた徽宗皇帝と高キュウが支配する都市。晶は「宋江」として人々を救い、全てを取り戻すために立ち上がることを決意するのですが……


 というわけで、いきなり地球滅亡→史進登場→異世界転移と、冒頭からフルスロットルで展開する本作。もちろんその物語展開は本作オリジナルのものではありますが、しかし、主人公となる少女が「宋江」と呼ばれ、そして「梁山泊」の英傑(たちの名を持つ者たち)を率いて戦うとなれば、水キチとしては見逃すわけにはいきません。

 もちろん、ここで描かれるのは、「水滸伝」そのままの物語でも、梁山泊での百八星でもありません。むしろ作中における「水滸伝」の扱いは、晶の世界におけるフィクションが、他の世界においては「現実の」救世主の物語として語られているという構造なのですが――しかし、百八星の名を冠する者たちが、貪官汚吏どころではない邪悪に対して立ち上がるというシチュエーションに、燃えないわけにはいきません。

 いわば本作における「水滸伝」「梁山泊」「百八星」は、自由と反逆、そして希望の象徴として語られるのですから……


 しかし本作のグッとくるところは、こうしたシチュエーションだけでなく、登場する百八星たちの造形にもあります。

 原典同様、最初に登場する百八星である九紋竜史進、そしてこちらは順番を大きくすっ飛ばして二番目に登場する黒旋風李逵は、アレンジは加えられてはいるものの、「らしい」デザインとキャラクターで納得の一言。
 如何にも情に厚い無頼の青年といった風情の史進もさることながら、関西弁の脳天気な兄ちゃんの李逵も、コロンブスの卵的似合い方で実に良いのであります(晶にぞっこん惚れ込んで勝手についてくる、というのもまた「らしい」)。

 一方、第2巻――晶たちが都の人々を解放するために乗り込んだ地下迷宮に登場するのは魯智深と林冲。魯智深は、こちらはかなりストレートな造形ではありますが、その分(?)林冲の方は本当に○○○の上に、登場時に既に○○というアレンジで、こちらはちょっと予想を超えた展開(林冲が本当に――というのは本作が初めてではありませんが)。
 その林冲vs三英傑というある意味夢の対決が第2巻のクライマックスというのも、意外なようでいて、原典における林冲の立ち位置を考えると結構しっくりと来ていたりして――これはこれで、大いに盛り上がるところであります。

 そしてそんな英傑たちに対し、「宋江」と呼ばれる晶自身は、あくまでも「水滸伝」を知っている――李逵のことを「鉄牛」と呼ぶのですから、それなり以上の読者だと思いますが――普通の女子高生に過ぎません。
 しかしそんな彼女だからこそ、一種の観察者兼司令塔として機能するという展開もまた、(原典の宋江の立ち位置を考えると)合点がいくところでありますし――何よりも彼女自身、「宋江」の名にふさわしい人間になるべく行動するという動機付けになっているのも、また見事と感じます。


 異世界転生ものに近いシチュエーションを用いながらも、しかし「水滸伝」として熱い展開をこの冒頭2巻で見せてくれた本作。
 この先もまだまだ原典には個性的な英傑、印象的なイベントがあることを思えば、本作がそれを如何に料理してくれるか、気にならないはずがないのであります。

 しかし晶がどの「水滸伝」を読んでいるかによって、英傑像の把握がだいぶ変わってしまうのでは――などと考えてしまうのは、これはマニアの余計過ぎる心配であります。


『爆宴』(士貴智志&イダタツヒコ 講談社シリウスコミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon

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