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2021.01.18

『明治開化 新十郎探偵帖』 第5回「ロッテナム美人術」

 美顔術で女性たちに人気を博すロッテナム美人館の信奉者として知られる元大名・大伴家の夫人・シノブ。彼女から新十郎は、夫の宗久が、シノブと二人の侍女が三人で一人などと言い出し、刀を振り回して暴れるという相談を受ける。調査を始めた新十郎だが、さらに美人館が関わる殺人事件まで起こり……

 原作『明治開化 安吾捕物帖』でも特に印象的なものの一つである「ロッテナム美人術」と同じタイトルの今回は、それだけでなく内容の方も、このドラマ版において、これまでで一二を争うほど原作に近い内容のエピソードであります。

 インド・アラビアに古来より伝わる美顔術を施すロッテナム夫人が開いた美人館。上流階級の夫人たちに人気のその美人館を訪れた梨江は、その美貌と才知で知られる大伴家夫人・シノブから声をかけられ、新十郎に彼女を紹介することになります。
 実は彼女を悩ませているのは、夫の宗久のこと――普段は物静かで学問を好む宗久なのですが、最近突然に日本刀を振り回して暴れるようになったというのであります。それもシノブたちの顔を見ては、彼女と侍女のカヨとキミの二人が、実は三人で一人の人間などと、とても正気とは思えないようなことを口走るというではありませんか。

 その奇怪なあらまし、さらには英語を操り豊かな学識を持つシノブに興味を持ったか、彼女からの依頼を引き受けた新十郎。しかし大伴家を訪れた彼は、初めは穏やかだった宗久が、シノブが語った通りに突如態度を変え、暴れ出す姿を目の当たりにすることになります。
 一方その頃、川から発見された男の射殺された死体が、実は美人館の下男のものであったことが判明。この奇妙な暗合に美人館を調べに向かった新十郎は、美人館が突然店仕舞いし、ロッテナム夫人が姿を消してしまったことを知らされます。勝は、美人館は外国の間諜のアジトであり、下男の死は間諜であった夫人の仕業などと推理するのですが……


 原作を大きくアレンジした内容であった前回に比べると――登場人物数が大きく減っていたり、後述の部分など、変更点はないわけではないものの――冒頭に述べたとおり、原作にほぼ忠実な内容であった今回。久々に勝の頓珍漢な安楽椅子探偵ぶりも披露され(もっともこれは原作にはないくだりなのですが)、フォーマットの上でも、原作に近い内容と言えます。

 もっとも、大きくアレンジされているのは、「犯人」の動機であります。その直接の目的は原作と同じ――ある意味非常に世俗的なものなのですが、しかし本作においては、実に本作らしいというべき、「その先」の狙いが語られることになります。
 そしてその狙いを支えるものは、ある意味新十郎の抱くものと重なるものであり、しかしそしてその手段において大きく異なるものでもあることが、クライマックスにおいて、描かれるのです。
(一方原作で描かれた、犯人の背後に存在する黒々とした闇の存在と、その前にさしもの新十郎も屈するしかなかった、という苦い結末も実に良かったのですが……)

 しかし残念なのは、このようにアレンジがうまく機能した部分がある一方で、あまりに便利な××が犯行に使われたり、犯人にとっては致命傷になりかねない証拠がそのまま残されていたり、何よりも犯人が墓穴を掘るとしか思えない行動(それ自体はミステリでまま見かけるものなのですが)を取っていたり――と、首を傾げるようなアレンジも多かったのも事実。
 おかげでミステリとして見ると、かなり残念な内容となってしまった、という印象は否めないところであります。


 ちなみに今回、事件とは関係ない部分で、西郷と大久保がこの国の在り方について議論を戦わせる場面が描かれることとなります。内容的にはほぼ征韓論争と重なるものなのですが、今回わざわざこれが描かれたのは、今後の本作の――まず間違いなく、クライマックスの展開に繋がるものなのでしょう。
 歴史に示される西郷と大久保の結末が本作で描かれるとすれば、新十郎がそこでどのように関わっていくことになるのか、ドラマの結末に関わる可能性が高いだけに、気になるところであります。

関連サイト
公式サイト

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