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2021.01.10

『蠱惑の本 異形コレクションL』から

 昨年のホラーシーンにおける大ニュースといえば、何といっても『異形コレクション』の復活でしょう。今回は『ダーク・ロマンス』『蠱惑の本』と二ヶ月連続で刊行されたうち、特に私好みの作品が収録されていた『蠱惑の本』から三つの短編を紹介します。

 1998年にスタートし、2011年に休止するまで実に48巻刊行されたホラーアンソロジー『異形コレクション』。その量と質、そして各巻のテーマのユニークさにおいて、まさしく伝説のアンソロジーであります。
 私はシリーズの(というよりホラーの)決して良いファンとはいえず、毎回自分の興味の対象(つまり時代もの)ばかり拾い読みするような人間だったのですが――それでも今回こうしてシリーズが再開したことは、大袈裟でなく涙が出るほど嬉しく感じます。

 さて、その復活第二弾となった『蠱惑の本』は、タイトルどおり「本」「書」をテーマとした一冊。今回はその中から、特に印象に残った作品三つを紹介したいと思います。


『オモイツヅラ』(井上雅彦)
 叔父の紹介である女性精神科医の書庫の司書に雇われた「僕」。ある日博士のもとにやって来た外科医の診察中、身体半分が破壊された少女の幽霊を目撃した僕は、それがきっかけで博士とともに往診に行くことに……

 本シリーズの編者でもある作者の作品において、特別な意味を持つ「本」といえば、そう、言うまでもなくシーボルトが日本で著した幻の三冊目「日本妖物誌」――作者の『ヤング・ヴァン・ヘルシング』シリーズに登場したこの本が、本作のキーとなります。

 ある女性の死体を検死して以来、手の震えが止まらなくなってしまった外科医、語り手が見た恐ろしい姿の少女の幽霊、そして「日本妖物誌」に記された謎の「オモイツヅラ」――この奇妙な三題噺は、やがて全く思わぬ、そして温かい物語を浮かび上がらせることになります。
 そしてラストに明かされる女医の正体にはニッコリするほかなく、これはもう是非シリーズ化していただきたい作品であります。
(ニッコリといえば、語り手の叔父の名がジャック・セワードなのにも……)


『外法経』(朝松健)
 京で続く怪事解明のため、一休の庵を訪れた侍所頭人・多賀高忠。一休不在のため、強い霊感を持つ一休の侍女の森とともに調査に出かけた多賀は、京の各地で何者かが邪悪な儀式を行っていることを知るも……

 かつて如何なるテーマでも室町伝奇に繋げてみせた(印象すらある)作者の新作――個人的にはこれあってこその本シリーズであります。
 一休シリーズにして一休が登場しない本作の主人公は、「鉞」の異名を取る侍所頭人と、一休の盲目の侍女。夜毎現れては異国の言葉で何ごとかを唱える漆黒の人影、そこには動物の死骸が残され、やがて犠牲は人間に――と、作者のファンであればそこで何が行われているかはすぐにピンと来るのですが、しかし何が現れたかを知った時の衝撃と恐怖たるや……(恐怖といえば、徐々に実体化していく「それ」の描写もまた実に怖い)。

 実は本作は、ほぼ同時期に刊行された大作『血と炎の京』の前日譚とも言える内容。こちらを読んでからあちらを読むと、ヒヤリとさせられる部分もあり、おすすめします。


『魁星』(北原尚彦)
 願えば欲しい本が手に入るという魁星神社の噂を、生前の横田順彌から聞かされていた作者。横田の死後に蔵書整理を行っていた最中、自分宛に託された本を見つけた作者ですが、それはこの世にあるはずのない押川春浪の未完の作品の単行本で……

 本書のラストに収められたのは、作者自身が主人公であり、その他の登場人物も全て実在という異色作。一昨年急逝した横田順彌と作者の風変わりな、そして心温まる交流を描く物語であります。
 その物語の中心となるのが、押川春浪の未完の長編であって、横田順彌が本シリーズに発表した春浪シリーズの『花菖蒲』のキーともなった作品。ある意味明治SFの外伝的な物語でもありますが――しかしここで描かれるものは、全ての本を愛する者にとっての一つの夢と言っても過言ではないでしょう。

 そして横田順彌ファンにとっては、最後に語られる作者の願いは、大いに頷けるものであることは間違いありません。本当に読みたかったなあ、あの作品!


 というわけで、今回は三作品のみでまことに恐縮ですが――この先もコンスタントに『異形コレクション』をこのブログで紹介していくことができれば幸いです。


『蠱惑の本 異形コレクションL』(井上雅彦編 光文社文庫) Amazon

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