碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第5巻 終わりの始まり そして別れの時
宮古湾海戦での手痛い敗北の衝撃も冷めやらぬ中、ついに箱館に迫る新政府軍を迎え撃つこととなった旧幕府軍。圧倒的兵力を誇る敵に土方はいかに立ち向かうのか、そして彼と最後の時まで共に在ろうとする鉄之助は……。最後の戦いはもはや目前であります。
箱館に共和国を樹立し、百年先の世を夢見る旧幕府軍の男たち。しかし新政府軍の反撃が間近に迫る中、先手を打っての乾坤一擲の作戦――軍艦「甲鉄」奪取を巡る宮古湾海戦で旧幕府軍は完敗を喫し、相馬・野村・安富ら最後の新選組隊士たちが、あたらその命を散らす結果となったのでした。
それでも彼らの死を悼む間もなく、箱館に迫る新政府軍に対して防備を進める大鳥と土方。伊庭八郎が、本山小太郎が、春日左衛門がその力を結集して松前を守る一方で、土方は一隊を率いて二股口を守ることとなります。
当然、これまで同様に土方と行動を共にしようとする鉄之助ですが、しかし今度ばかりは連れてはいけぬとすげなく振り払う土方。それに対して鉄之助がとった行動とは……
というわけで、ついに始まってしまった新政府軍の蝦夷地上陸。いよいよ箱館戦争もクライマックス(という言い方はあまりしたくないのですが……)であります。
ここからの展開は、これまでこの地に集った少年たちの姿が明るく、男たちの姿が颯爽としていただけに――というのはあくまでも一面的な印象で、もちろんその背後には数々の悲しみがあったわけですが――より一層刺さるものがあります。
そしてその中でも哀れを誘うのは、やはり鉄之助の姿でしょう。本作の主人公の一人として、物語冒頭から土方に付き従い、この戦争の行方をつぶさに目撃してきた鉄之助ですが――しかしそのまさに土方によって、戦闘の場から、つまりは自分から離れるように命じられるのですから。
もちろんできるだけ年端のいかぬ者を戦場から遠ざけようとするのは、相手が鉄之助ならずとも当然のことでしょう。その後も何とか戦闘に加わろうとする鉄之助の姿も、危なっかしくて仕方ないのですが――しかし何が鉄之助を突き動かしているか、彼の旅路を見守ってきた我々は知っています。
その一方で、この巻の前半でも描かれるように、近藤亡き後の新選組と隊士たちを背負い、そしてその隊士たちを死地に送り込んできた土方の屈託もまた痛いほどわかるわけで――果たしてどちらの側に立てば良いのか、これまで物語に深く感情移入していた者ほど厳しいこの展開を何と評すべきでしょうか。
そしてこの両者の「対峙」――これまで見たこともないような表情で土方の前に立つ鉄之助の姿は、この巻の、いや本作の一つのクライマックスであると感じます。
しかし、この巻で描かれたものは、まだ終わりの始まりに過ぎません。この先の歴史を知っている身としては、正直に申し上げてこの先を見るのが辛い、いや怖いのですが――しかしだからこそ、結末を見届けなければならないとも感じます。
この「星のとりで」に集った者たちの人生が、想いが、決して無為に終わるものではないと信じるからこそ……
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