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2021.01.06

冬目景『黒鉄・改 KUROGANE-KAI』第5巻 物語の結末に関わる二つの「史実」

 いよいよ鋼の迅鉄の二度目の旅もこの巻で結末を迎えることとなりました。自分を今の体に変えた男であり、既に死んだはずの平賀源吉生存の報に長崎に向かったものの、罠に落ちて捕らえられた迅鉄。彼の行方を追う丹たちが知った真実とは、そして迅鉄を待つ運命は……

 謎の一団、灰土隊との戦いが終結したのも束の間、源吉が生きている噂があるという久作の言葉に、長崎に向かうこととなった迅鉄と(無理矢理付き合わされた)丹。
 そこで源吉の義妹だという豪商の跡取り娘・矢的と出会い、命を狙われているという彼女の護衛を務めることとなった迅鉄ですが――しかし彼女に一服盛られ、囚われの身となってしまうのでした。

 以前から灰土隊を追っていた公儀隠密・伊奈信治や元灰土隊の女剣士・瑠璃、そして出島の医師・ベルゲンも絡み、事態はいよいよ複雑化していくことに……


 と、迅鉄が囚われたまま、丹や久作、信治、さらには瑠璃が、灰土隊の正体、矢的の真意、何よりも源吉の真実に迫っていくこととなるこの最終巻。そしてその物語には、二つの「史実」が大きく関わっていくこととなります。
 その一つはペリーの浦賀来航。これまで史実とはほとんど関わることなく展開していった感のある迅鉄の物語ですが、ここにおいて明確に「今」が何時なのかが語られ、そこから灰土隊とその背後にいる者たちの行動の意味が語られることになります。

 しかしもう一つの「史実」は、それとは比べ物にならないほどのインパクトをもたらします。何しろそれは、ある歴史に残る文学作品とのリンク――さすがにその名をはっきりとここに記すことは避けますが、まさかここでその名を聞くとは! と仰天すること請け合いの繋りなのですから。
 実は源吉はあの人物の孫弟子に当たるのであり――だとすれば迅鉄は、時を経て甦ったあの○○の子孫ともいうべき存在とも言えてしまうのですから、これを驚かずにいられましょうか。

 ……しかし、迅鉄は、単純に機械的な作用によってのみ、この世に舞い戻り、そして「生き」続けている男ではありません。これまでの物語において描かれたように、そこにはある種の「魂」(というには剣呑過ぎるのですが)というべき存在が関わっているのですから。
 この辺りに、先に挙げた作品との共通点と相違点を見るのもまた楽しいと感じますし、そしてその相違点にこそ、作者の個性がある――というのは決して牽強付会ではないと感じます。
(そしてまた、この『黒鉄・改』からの鋼丸の設定変更も、ここに繋がってくるのか、と納得)


 何はともあれ、鋼の迅鉄の物語は、ここで一つの終わりを迎えることとなります。
 それはいささかあっけない(というよりあっさりしている)ようにも思えるかもしれませんが、登場人物たち一人一人の旅の終わりが描かれていることを思えば、納得できる結末と感じられます。

 何よりも、股旅ものの結末が、旅立ち(放浪の続き)か死しかないとすれば、本作の結末は死から甦った男には相応しいものであると同時に――その「死から甦った男」という属性からも解放されたように見える結末(あくまでも「見える」だけなのかもしれませんが……)は、どこかホッとさせられるものがあります。

 正直なところ、作者のあとがきには複雑な気持ちになるところもあるのですが、しかしそれでもここで描かれるべきは描かれた――そう感じたところです。


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