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2021.01.16

「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その一)

 まだ年を越して間もない気もしますが、号数の上ではもう2月号の「コミック乱ツインズ」。巻頭カラーは『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)です。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきます。

『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)
 というわけでシリーズ連載の第2回。元盗人の捨丸(15歳)と元百姓の春(13歳)――大胆にも天下取りを夢見た二人の「凄春」を描く物語であります。

 今回の舞台となるのは、徳川軍が武田軍の高天神城を攻めた戦い。その武田方に加わっていた二人は、落城寸前の城から逃げ出すのですが――その途中、二人は徳川の兵に襲われて傷を負った、武田勝頼からの伝令・山科実直正義と出会うことになります。
 主への恩義のため、命を賭けて城に向かおうとする山科のまさに実直さに感動する春。その一方で、捨丸は密かに……

 というわけで、今回も吹けば飛ぶよな若き雑兵二人の、何とも世知辛い戦国渡世が描かれる今回(そもそも、春が自分の属していた側の大名の名を知らないという時点で、もう何と言ったらよいのか……)。
 前回の舞台となった長篠城の戦で名高い(けれども本作には登場していない)鳥居強右衛門を思わせる山科と出会った二人の、対照的な行動が今回の見所となります。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、それを受けての山科が選んだ道と、その結果。高天神城の戦いの結末については、歴史が示すところですが――その背後にあったかもしれない名も知れない者たちの物語は、何とも切なく苦い味を残すのであります。
(しかしこの二人、長篠の戦いの時と今回で年齢が変わっていないのですが、そういう設定でこの先も展開するのでしょうか)


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 いよいよ今回から新章『暁光の断』開幕となった本作。作中でも正月を迎え、和やかなムードの水城家ですが――艶やかな晴れ着姿の紅さんを置いて、職場の年始回りに行かないといけない聡四郎には勤め人の悲哀が漂います。

 それも尋ねる先が、正月から仏頂面の白石のもとだったりして、しかもいやいや屋敷に上がってみれば、白石は疑心暗鬼バリバリだったりするものだからもうこれは災難としかいうほかありません。おまけに最後に紀州家に寄ってみれば、こちらでも上がっていけと言われるではありませんか。
 そして何と吉宗とサシで呑むことになった聡四郎。呑みながら酒に絡めて吉宗の政談を聞かされたり(一番胃に悪い酒の飲み方)、かと思えばいきなり杯を取り替えてサシもサシ、目の前で呑もうと言われたりと完全に吉宗に「呑まれる」羽目になります。

 挙げ句、余にのために、いや御上のために手を貸せ、と殺し文句をぶつけられることになってしまった聡四郎。今の上司に比べるとぐっと頼りがいはありそうですが、仕えたら仕えたらで大変そうな相手のヘッドハンティングに揺れる――剣戟こそありませんでしたが、この先の激動の一年を予感させるような今回のエピソードであります。

 そしてその一方で山村座に現れた紀伊国屋文左衛門は、看板役者の生島新五郎にあるお女中の接待を命じて――と、これまた不穏な動き。どう考えてもあの事件の前フリとしか思えませんが、こちらが聡四郎にどう絡むのかも気になるところであります。


 思った以上に長くなってしまいましたので、残りの作品は次回に紹介いたします。


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