« 高橋留美子『MAO』第7巻 最後の弟子 そして運命を狂わされた者たちの戦い | トップページ | 『明治開化 新十郎探偵帖』 第6回「稲妻は見たり」 »

2021.01.23

栗原ちひろ『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 2』 幽霊男爵の奇怪にして奇想に溢れた物語再び

 大の心霊マニアの伊達男・人呼んで「幽霊男爵」・エリオットが、幽霊にまつわる怪事件の数々に挑むホラーミステリー、待望の第2弾であります。今回も忠僕コニーをお供に、あり得べからざる事件の数々に首を突っ込むエリオットが見るものとは……

 ヴィクトリア朝時代の英国で、美しい女性たちと浮名を流しつつ、悠々自適の生活を送る隻眼の男爵エリオット。しかし周囲の人々は、彼をこう呼ぶのです。「幽霊男爵」と……
 そう、実は彼は無類の心霊マニア。ロンドン中の心霊がらみの会合、そして心霊にまつわる噂が流れるところには顔を出さずにはいられない変わり者――であるのと同時に、彼は幽霊を隠れ蓑に悪事を働くものを決して許さない男でもあります。

 実は幼い頃からこの世ならざる者たちを見る目を持ち、そして少年時代に幽霊たちに助けられてある事故から生還、同時に人間の世の残酷さを味わうことになったエリオット。
 このように幽霊と人間、死と生の合間に立ってきた彼が、果たして真怪か偽怪か定かではないような奇怪な出来事に挑み、その陰に隠されたものを明らかにする――本作はそんなミステリ味も強い英国ホラーであります。


 しかし、本作がユニークなのは、そのエリオットのキャラクターや基本設定だけでは決してありません。何よりも、本作に収録された個々のエピソードは、他所では決して読めないような、奇怪にして奇想に溢れた物語揃い――一読三嘆間違いなしの傑作揃いなのですから。

 生前の埋葬を防止する「安全な棺」のベルを夜毎鳴らす幽霊が、エリオットがかつて出会った初恋の人(幽霊)と瓜二つだった――という不可解極まりない事件を描く「初恋の君は棺桶のベルを鳴らす」
 列車でエリオットが出会った精神科医の兄と患者の弟――実は法の網を逃れた罪人を魔法で殺す「魔法殺人」の犯人だというその弟が予告する完全犯罪に挑む「最新式魔法による殺人」
 生物学者の屋敷を訪れたまま消息を絶った従姉妹のアレクサンドラを追ってきたエリオットたちが、学者がアフリカから持ち帰ったという、この世にいるはずのない奇怪な生き物たちの存在を知る「方舟の切符は売り切れ」
 エリオットへのクリスマスプレゼントとして曰く付きのドールハウスを手に入れて以来、周囲で頻発する怪事件に悩まされるコニーを描く「魔女の家にもクリスマスは来る」

 ここで描かれるのは、いずれも、どうすればこのようなストーリーが思いつけるのだろう、と驚くしかない物語の数々。意外でインパクトのある発端から、意表をついて二転三転する展開の数々、そしてとどめとばかりにひねりを効かせた結末――いささか大袈裟にいえば、ホラーの、いや物語というものの楽しさと可能性というものが、ここには満ち満ちていると感じられます。

 そしてまた素晴らしいのは、たっぷりと幽霊と怪異に満ちた物語を描きつつも、それとともに人間の――それも多くの場合、どこかもの悲しく、切ない――姿が描かれる点であります。
 ここにあるのは、幽霊だけでなく、エリオットという特異なキャラクターの物語を通じて初めて描くことできる人間の姿であり――それもまた、本作という物語の持つ魅力、可能性の一つといえるでしょう。

 そしてまた、エリオットがある種完成したキャラクターである一方で、それとは全く似て非なる存在としてコニーが描かれ、そして彼は彼なりに、ほんのわずかずつながら、人間として成長していく――自分を「人形」と呼ぶ彼が、少しずつから人間に近づいていく――姿もまた、印象に残るところです。


 キャラクターよし、設定よし、物語よしと、手放しで絶賛したくなってしまう本作。エリオットと対になるような、すなわち彼のライバル足りうるキャラクターも登場したことでもあり――彼の奇妙で奇怪で、そして途方もなく魅力的な冒険を、この先もまだまだ読みたいと、そう強く感じる次第です。


『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 2』(栗原ちひろ 集英社オレンジ文庫) Amazon


関連記事
栗原ちひろ『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』 生者と幽霊の交わるところに幽霊男爵が見るもの

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 高橋留美子『MAO』第7巻 最後の弟子 そして運命を狂わされた者たちの戦い | トップページ | 『明治開化 新十郎探偵帖』 第6回「稲妻は見たり」 »